天災と復興の日本史

外川 淳著
2011年6月24日 発売
定価 1,650円(税込)
ISBN:9784492061848 / サイズ:サイズ:四六判/ページ数:224

【内容紹介】




世界有数の火山列島という国土の成り立ちから、大地震はじめ大天災にしばしば見舞われてきた日本。そうした大災害が、どのように歴史を動かしてきたのか。また、先人達はいかにして復興を成し遂げたのか。天災(地震・津波・噴火)という新視点から日本史を捉え直した意欲作。



本書では、日本史を動かした主要災害として、天長出羽地震、鎌倉地震、天正地震、慶長伏見地震、寛文高田地震、宝永富士山大噴火、天明浅間山大噴火、島原大変、善光寺地震、安政江戸地震、磐梯山大噴火、濃尾地震、明治三陸大津波、関東大震災などを取り上げている。そして、これらの被害そのものより、災害後、当時の為政者(トップ)や人々がいかに考え行動して、復興の道を歩んだかを分かりやすい語り口で解説している。



なかには、天災という切り口から歴史を捉え直すことにより、従来の通説とは違った歴史解釈が示されている点もあり興味深い。たとえば、豊臣家を弱体化するために徳川が行わせたといわれる寺社造営なども、慶長伏見地震の復興という視点から捉え直すことにより、違った側面を浮かび上がらせている。そのほか、江戸幕府による復興税の不正利用、復興政策のまずから起きた一揆、地震の二次被害を防いだ名君、世界的科学者・野口英世誕生のきっかけとなった大噴火――といった意外な実話がふんだんに紹介されている。



また、たび重なる大津波にもかかわらず進まなかった三陸の住居の高所化、関東大震災後の政争により縮小された復興計画……など、現在の日本が直面する、東日本大震災からの復興という課題に対しても大きな示唆を与える内容になっている。



【著者からのコメント】




「災い転じて福となす」という諺(ことわざ)もあるように、天災の発生を逆に好機としてとらえ、以前よりも住みよい環境や活力のある社会を創造することも日本の歴史には何度かあった。地震多発国の日本では、災害と戦うといより、上手に接してきたともいえる。本書では、いかに日本人が地震、噴火、津波などに耐えながら、災害を発展へのバネにしてきたのか分析を加えてみた。(「はじめに」より)

商品を購入する

概要

巨大地震や津波、噴火などが、どのように歴史を動かしたのか。また、先人達はいかにして復興を成し遂げてきたのか。新視点から日本史と日本人を分析し、現状の危機からの脱出法のヒントを示す。

目次


○はじめに――歴史に学ぶ防災と復興

○日本の主要災害(地震・津波・噴火) 全国分布図

     天災の古代史――災害を天の警鐘とみなした古代王朝
     御神体となった火山 
     情報不足の古代天災史 
     『六国史』に記録された地震 
     平安京を襲う群発地震
     天長出羽地震――復興への希望的観測
     『方丈記』と『徒然草』に記録された京都地震

 1293年 永仁鎌倉地震――復興された武士の都 
     鎌倉――災害に弱い要塞都市
     建長寺炎上――復興にかける鎌倉武士の思い
     得宗専制――天災を利用した粛清劇 
     今も続く古都鎌倉と天災との攻防

 1585年 天正地震――天下人秀吉の恐怖体験
     秀吉危機一髪――液状化現象の恐怖 
     土砂崩れに襲われた黄金の城 
     例外としての「消えた帰雲城」
     地震多発国で生きるための秘訣

 1596年 慶長伏見地震――創出された災害復興への王道
     秀吉自慢の天守崩壊
     地震と朝鮮出兵との意外な相関関係 
     地震加藤――震災を利用したクーデター 
     地震は秀吉への天罰か? 
     震災復興計画に秘められた罠 
     寺社復興による景気刺激策 
     復興は徳川と豊臣の協同作業か?

 1665年 寛文高田地震――天災が生んだ名宰相
     災害の二重苦――豪雪と大地震発生 
     辣腕家老の登場と復興資金の獲得 
     難題克服――復興と都市再開発の両立 
     越後騒動――抹消された名宰相の功績 
     繰り返された液状化現象による被害

 1707年 宝永富士山大噴火――欺瞞に満ちた復興策
     一揆勃発――生存をかけて立ち上がる農民たち 
     不正利用された災害復興税 
     老中と財政官僚との癒着関係 
     国の復興事業を押し付けられる地方自治体 
     酒匂川改修――景気浮揚のための公共事業 
     請負業者への復興資金流出

 1783年 天明浅間山大噴火――田沼政権を崩壊へと導いた天災
     天災は圧政への警告ではない 
     浅間山大噴火――土石流の発生と河川氾濫 
     百姓一揆――生存をかけた実力闘争 
     復興への王道――賃金供与による生活支援 
     名君慟哭――巨額復興費の供出命令 
     噴火が引き起こした大飢饉と政権崩壊 
     火山灰飛散と放射能汚染との共通点

 1792年 島原大変――格差社会を拡大させた大津波
     島原半島を襲った二度の災難 
     島原の乱からの復興 
     島原大変――大量の岩石崩落によって津波発生 
     藩主急死――果たせなかったリーダーの責務 
     災害復興と借金との二重苦 
     藩財政窮乏が生んだ格差社会 
     平成大噴火――最小限に抑えられた被害

1847年 善光寺地震――二次被害を防いだ真田の智謀
     天災に立ち向かう真田主従 
     城にとどまり、領民と苦楽を共にする 
     真田幸貫の英断――抑制された二次被害 
     善光寺炎上――御開帳中の悲劇 
     被災住民による都市改造

 1855年 安政江戸地震――動乱を加速させた直下型地震
     大江戸地震史――安政江戸地震発生まで 
     黒船来航と災害の多発 
     安政江戸地震――下町を壊滅へと追い込んだ直下型 
     若き与力の地震奮闘記 
     御救小屋――瞬時に完成した仮設住宅 
     江戸っ子特有の景気刺激策 
     藤田東湖圧死――水戸藩の内部闘争激化へ 
     阿部政権崩壊――はがされた実力者の仮面

1888年 磐梯山大噴火――日本初の義援金と災害報道
     霊峰として祀られた火山 
     土石流の恐怖と二次被害 
     賊軍会津への同情と義援金 
     有力新聞社が競合した災害報道 
     野口英世――磐梯山噴火が生んだ世界的科学者 
     災害復興記念館への期待

 1891年 濃尾地震――地震学を発展へと導いた都市災害
     巨大大都市名古屋を襲った大地震 
     軍隊出動によって防がれた二次被害 
     全世界から集められた義援金の使い道 
     地震が生んだ好景気 
     露呈した煉瓦建築のもろさ 
     日銀本店に生かされた地震の教訓 
     抹消された戦時下の巨大地震の被害

 1896年 明治三陸大津波――生かされなかった過去の教訓
     江戸時代に三陸は存在しなかった 
     進展しない住居の高所化 
     明治大津波――突然訪れた悲劇 
     大津波発生と伊藤内閣の崩壊 
     高所化した住居を襲った火災 
     昭和三陸大津波――生かされた教訓 
    「津波てんでんこ」――家族も顧みない非情の教え 
     忘れられた教訓と巨大堤防への過信

 1923年 関東大震災――幻の東京再生計画
     一掃されなかった江戸の街路 
     フェーン現象による被害拡大 
     広げられた後藤の大風呂敷 
     政争の具とされた復興計画 
     市民の自主性に委ねられた区画整理 
     東京復興の光と影 
     歴史から学ぶ復興への道

○日本百大天災年表――地震・津波・噴火編

○おわりに――災害記念館建設への期待

著者プロフィール

外川 淳
とがわ じゅん

1963年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部日本史学専修卒。新人物往来社『歴史読本』編集部を経て歴史アナリストとして独立。日本史の実像に迫る新視点からの分析には定評がある。歴史ファンとともに古城や古戦場を巡る「歴史探偵倶楽部」を主催。

主な著書に『名言で読む幕末維新の歴史』(講談社)、『歴史現場からわかる河井継之助の真実』『歴史現場からわかる徳川慶喜の真実』(ともに東洋経済新報社)、『直江兼続』『坂本龍馬 手紙にみる真実の姿』(ともにアスキー新書)、『新説 前田慶次』(新人物往来社)、『天守を巡れば歴史が見える』(ソフトバンク新書)、『しぶとい戦国武将伝』(河出書房新社)、『徳川幕府・創業三代の百年闘争』(成美文庫)、『戦国時代用語辞典』(学習研究社)などがあるほか、監修書に『女子のための日本史入門 幕末史!』(朝日新聞出版)などがある。

※本書の著者印税の1割は、東日本大震災復興への寄付金として宮城県亘理町に寄付されます.