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ミクロ経済学 理論と応用

ミクロ経済学 理論と応用

中泉 真樹著/鴇田 忠彦著
ISBN:9784492312780
旧ISBN:4492312781
サイズ:A5判 上製 460頁 C3033
発行日:2000年05月16日 【在庫切れ】
定価
3,780円(税込)
経済社会問題に応用するうえで不可欠な基本事項に絞って、伝統的なミクロ経済学と、新しく発展してきたゲーム理論を初学者にもわかりやすいよう丁寧に解説。

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目次

第1)部 市場の理論

第1章 消費者行動の理論
第2章 企業のの理論
第3章 市場均衡の理論
第4章 分配の公平と市場の失敗
第5章 不確実性と市場

第2)部 ゲームと情報
第6章 ゲーム理論への入門:初歩から応用へ
第7章 くり返しゲーム
第8章 交渉ゲーム
第9章 不完備情報ゲーム
第10章 情報の経済学:情報の非対称性と市場の失敗
第11章 進化論的なゲーム

第3)部 ミクロ経済学の応用
第12章 規制vs.規制緩和の経済学
第13章 環境政策の経済分析
第14章 教育の経済分析
第15章 医療の経済分析


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 ミクロ経済学は、経済全体(社会全体)の動きの背後にある、私たち個人や会社の動きに目を向けます。その主要な対象が市場(市場経済)です。
 本書では、この市場経済を読み解くうえでの便利な道具であるミクロ経済学を、以下の3段階で学びます。
 まず、市場とは何かを理解し、その機能と限界について学ぶのが第Ⅰ部「市場の理論」です。すなわち、伝統的なミクロ経済学です。
 つづく第Ⅱ部「ゲームと情報」では、表題にもあるとおり、ゲームの理論と情報の経済学という新しく発展してきた道具=最新のミクロ経済学について学びます。
 最後の第Ⅲ部「ミクロ経済学の応用」では、規制対規制緩和、環境問題、教育、医療などのホットな話題に、第Ⅱ部と第Ⅲ部で学んだ道具がどんな切れ味を示すかを試します。
 この理論、発展、応用の3段階を経て本書を読み終えたあなたは、さまざまな経済問題を自分なりに考えるときに助けてくれる便利な道具類の選び方・使い方を道具箱とともに手に入れることができます 

各章のQuestionとAnswer

第1章のQuestionとAnswer

第1章:Question



1
.


代替効果と所得効果については、本文での説明(図1-6)とともに、ヒックスによる別の説明もある(実は最近の教科書では、こちらのほうがポピュラーである)。図1-10のように、新しい予算線と同じ傾きで、元の無差別曲線に接するように架空の予算線を引く。接点をC *として、CからC *への移動を代替効果、C *からC′へのシフトを所得効果とする。そこで次の問題を考えよ。
新しい説明と本文での説明の相違点は何か。

本文に掲載されている図1-6、図1-10ではなく、こちらの図を参照してください。







2.


財の種類を必需財と奢侈財とに分類する。文字どおり生活必需品は必需財で贅沢品は奢侈財とする。本文の所得弾力性を使って、この2つの財の性質を区別するとどのようになるだろうか。


3.


現在の消費と将来の消費の選択で、本文では現在は債権者であるケースを説明した。現在債務者である場合には、利子率が低下するとどのような効果が発生するか、図示して考察せよ。

第1章:Answer



1.


本文に掲載されている図1-6、図1-10には誤りがあります。この問題を解くためには、当サイトの「Question」ページに掲載されている図1-6、図1-10を参照してください。

ある財の価格変化が消費パターンに及ぼす効果は、代替効果と所得効果に2分されるが、本文での分割の説明はスルツキー分解といわれ、ヒックス分解と区別される。両者の相違は、代替効果をいかに定義するかにある。図1-6のように、本文ではもとの均衡点Cを通り、価格だけが変化する予算線を引いて、この予算線と接する無差別曲線との接点をC*として、CからC*へのシフトを代替効果としている。2つの点は同じ予算線の上にあるから、同一所得でありながら価格の変化によって、消費がどれだけ異なるかを示している。他方練習問題では、もとの均衡点Cに接する同じ無差別曲線と、価格変化によって傾きが変わった予算線との接点をC*として、CからC*へのシフトを代替効果としている。このときの代替効果の意味は何だろうか。 厳密に考えると、C*での消費では、価格が変化する前と同じ消費パターンCが可能なように所得が補償されたわけではない。しかし、それは同一の無差別曲線上にあるから、価格変化後も同一の効用を得ていることになり、実質的に所得が同一と解釈できるのである。つまり、ここでの代替効果は、「前と同じ効用が維持されるように実質的に所得が補償されたら」という条件のもとでの消費の変化を意味している。


2.


必需財はまさに「生活必需品」で生きていく上で欠かせないものであり、それに対して奢侈財は「贅沢品」である。そこで所得が変化したとき、これらの財の需要はどのように変化するかが問題になる。一般に生活必需品は、所得が変化しても、その需要はあまり変化しない。つまり所得弾力性は小さい。これに対して奢侈財は所得の変動に左右される。つまり弾力性は大きい。昔から“食べ物屋に廃(すた)りはない”といわれた。コメやパンなど、いくつかの食料品については、その需要が景気(所得)に極端に左右されることはないのである。


3.


現在債務者である場合には、図A1-1の点Cのように現在の所得は将来の所得より低く、点Dのように将来の高い所得を見込んで資金を借り入れ、現在の所得以上に消費する。そして、将来の所得は利子を加えた元利合計分の返済と将来消費に使われるのである。そこで利子率がiからi ′に低下したとしよう。すると将来の消費財の価格が相対的に現在のそれより高くなるから、代替効果によって将来の消費は低下し、現在の消費は増加する(点Dから点Eへの変化)。さらに将来の利子返済分は低下して、それだけ債務者の所得は増加するから、現在消費と将来消費がともに下級財でないとすれば、所得効果によって現在の消費も将来の消費もともに増加する(点Eから点Fへの変化)。つまり債務者にとって低金利政策は、消費が下級財でない限り現在消費を増加させ、一方で、将来消費の動向は代替効果と所得効果の大きさに依存するのである(図A1-1の場合は代替効果が所得効果を上回って、将来の消費は減少する)。

第2章のQuestionとAnswer

第2章:Question



1
.


本文では説明できなかったが、企業の生産物の種類は一般に複数であって、企業はどのような種類の生産物を、どれだけ生産するかという結合生産の問題に直面することのほうが一般的である。簡単なケースについて図2-8を用いて説明しよう。いまM乳業という会社がバターとチーズを生産しているとしよう。この企業の生産要素である牧場、サイロおよび農場の従業員などはさしあたり一定としよう。するとそれだけの生産資源を投入して生産されるバターとチーズの組み合わせは、生産フロンティアとよばれる原点に凹の曲線となるとしよう。このとき以下の設問に答えよ。


1.1
バターの価格と生産量をpbxb、チーズの価格と生産量をpcxcとするとき、この企業の売上げはどのように表されるか。

1.2
生産フロンティアの上の接線の傾きは限界変形率あるいは限界変換率とよばれ、バターの生産を1単位断念したときに、チーズの生産はどれだけ増やせるかを示している。このことを確認せよ。

1.3
このM乳業が利潤を最大にしようとすれば、そのときバターとチーズの2財の限界変形率と価格比は一致することを確認せよ。



2.


完全競争企業の場合、もし売上げが一定ならば、費用の最小化は利潤最大化と同じになることを説明せよ。


3.


ある生産水準をxとすれば、その水準までの限界費用の下の面積は、その水準における可変費用の大きさに等しいことを確認せよ。また生産者余剰が利潤と固定費用を加えた値であることを確認せよ。

第2章:Answer



1.


ここでの課題は、結合生産の場合に、企業は複数の財をそれぞれどれだけ生産しようとするかを説明することである。

1.1
この2種類の財を生産する企業の売上げをRとすれば、Rはバターの売上げとチーズの売上げの合計であるから、次式のようになる。

R=pb・xb + pc・xc

1.2
本文72ページにある図2-8において、生産フロンティアの上の2点をα、γとする。点γからバターの生産をβまで減らしたとすると、チーズの生産をαまで増やせることになる。つまり、線分γββαの比率であるβα/γβの値は、バターの生産をγβだけ断念すれば、その1単位についてどれだけチーズの生産を増やせるかを意味している。いまαをこの曲線に沿ってγに十分に近づけると、線分αγは、γにおけるこの曲線の接線に一致する。すると、線分αγの傾きを意味するβα/γβの値は、この接線の傾きに一致する。つまりこの値は、バターの生産を微小に1単位断念したときに増産可能なチーズの量を表しているのである。

1.3
最初の設問で得られた売上げの式を以下のように変形する。

xc=R/pc-(pb /pc)・xb

この式は、縦軸の切片がR/pcで傾きがpb/pc(つまり2財の価格比)である右下がりの直線である。このフロンティア曲線の上では、企業の生産要素はすべて投入されているから、費用はどこでも同一と考えられる。したがって利潤は売上げから費用を引いたものだから、利潤を最大にすることは、この場合には売上げを最大にすることと同値である。そこで生産可能でかつ利潤を最大にするのは、この曲線上にあって縦軸の切片R/pcを最大にする点であり、それはこの直線が曲線と接する時に実現する。つまり売上げを示す直線が、このフロンティアの接線になるときに利潤は最大になるのだから、そのとき直線の傾きは接線の傾きと一致している。かくて限界変形率=2財の価格比の関係が成立する。



2.


この問題は2.2節の技術選択に関わるもので、そこでは等生産量曲線の上のどこで生産するか、つまりどの技術を選択するかが問題であった。この曲線上では、定義によって生産量は同一であり、完全競争企業にとって価格は与えられているので、結局、売上げは一定である。すると 利潤=売上げ-費用であるから、売上げが一定ならば、利潤を最大化することと費用を最小化することは同値になる。2.2節での問題は費用最小化となる技術の選択だが、それは売上げが一定ならば、利潤を最大化することと同値である。


3.


本文に掲載されている問題文には誤りがあります。当サイトの「Question」ページに掲載されている問題文を参照してください。

生産量を1,2,3,・・・とすれば、生産量1のときの限界費用は0から1まで生産を増やしたときの費用の追加分を、生産量2のときの限界費用は1から2まで生産を増やしたときの費用の追加分を示す。こうして生産量xまでの限界費用の下の面積は、生産を1単位ずつxまで増加させたときの費用の追加分を順に足したものであるから、それは結局、生産量xのもとでの可変費用の値になる。一方で、生産者余剰は売上げから可変費用を差し引いたものである。利潤の定義から、利潤=売上げ-費用=売上げ-(可変費用+固定費用)となり、これを変形して売上げ-可変費用=利潤+固定費用=生産者余剰となる。すなわち生産者余剰とは利潤に固定費用を加えたものであり、もし固定費用が0ならば生産者余剰と利潤は一致する。
第3章のQuestionとAnswer

第3章:Question



1
.


部分均衡分析で余剰概念を使い、市場均衡での生産=消費が社会的厚生を最大化させることを、過剰生産または過少生産の場合とくらべることで説明せよ。


2.


パレート効率の状態に到達するまでは、誰も犠牲にならずに少なくとも他の誰かの厚生を改善できる。これをパレート改善とよんでいる。パレート改善は全員一致のルールと同一であることを論じよ。


3.


“乏しきを憂えず、等しからざるを憂うる”という状態を、図3-4に2つの点を書き込んで、比較することによって説明せよ。

第3章:Answer



1.


本文83ページの図3-1のように、需要曲線と供給曲線の交わる通常の部分均衡点をEとしよう。このときの社会的厚生(社会的余剰)は消費者余剰と生産者余剰の合計で、縦軸と両曲線で囲まれた面積である。過剰生産とはこの均衡点Eよりも右で生産することであり、過少生産とは逆に左で生産することである。どちらの場合にも社会的厚生は均衡点Eのもとでのそれよりも小さくなる。第4章で説明する独占企業の場合に起こる過少生産ならば、点Eの左にできる三角形の面積だけ社会的厚生は小さくなり、第12章で説明する非効率な市場規制で起こる過剰生産ならば、右にできる三角形の面積だけ小さくなる。


2.


パレート改善では、誰も不利益をこうむることなく、少なくとも1人の状態を改善することが可能である。したがってこのような改善に反対する人はいないはずである。つまりこのようなパレート改善は、投票における全員一致のルールと同一である。


3.


本文94ページの図3-4に点αβを次のように描き込もう(図A3-1を見よ)。点αは45度線近くにあって、両者の効用水準はほぼ同じだが、フロンティア上からは遠い内点とせよ。これに対してβはフロンティア上にあるが一方の効用に比較して、他方の効用は極端に低いという点とせよ。すると、αの状態は“乏しきを憂えず”に、βの状態は“等しからざるを憂える”に対応する。つまり点βは確かに効率的ではあるけれども公平性に問題があり、点αは効率性には問題だが公平性では勝り、両者を比較すればαを取るべきだというのである。

第4章のQuestionとAnswer

第4章:Question



1
.


社会全体の厚生が、社会を構成する人々の効用に依存するとして、図3‐4のように、ロビンソンの効用を横軸に、フライデーの効用を縦軸にとったとき、2人から成り立つ社会の厚生に関して、あたかも無差別曲線が描けるとしよう(このような想定の背後には、基数的な効用という考え方がある)。さて、ロールズが構想したのは、社会構成員のうち最も恵まれない人に、最も恩恵を与えるルールである。いまロビンソンとフライデーの2人で社会を構成しているとして、両者の効用をuRとuFとすれば、社会厚生Wは次のように示される。

W=min(uR,uF)

min( )とは、( )の中の小さいほうの値がWになるということを意味している。このとき、以下の設問に答えなさい。

1.1
ロールズの社会厚生が上の式で表されるのは、なぜか。また、この社会厚生に関する無差別曲線の形状を図示しなさい。

1.2
図3-4の効用フロンティア上でこの社会的厚生が最大になる点をもとめなさい。



2.


独占企業といえども、その財の価格と生産量の両方を自由かつ独立して決定することはできない。それはなぜなのか、またどのような状況ならばどちらも自由に決定できるだろうか。考察せよ。


3.


ロビンソンとフライデーしかいない町で、2人でお金を出して花火大会をすることにした。横軸を花火大会の規模(花火の本数)として、2人の花火に対する需要曲線を描いてみよう。その上で、以下の設問に答えよ。

3.1
2人の需要曲線を(横に)水平にではなく、(縦に)垂直に加えたものがこの町全体の、つまり「2人の需要曲線」になる。この点を、純粋公共財の性質から説明せよ。

3.2
設問3.1における「2人の需要曲線」の図に限界費用曲線(供給曲線)を描き、社会厚生を最大化する花火大会の規模を明らかにせよ。

3.3
設問3.2のような花火大会の実現が困難になる理由を説明せよ。

第4章:Answer



1.


1.1
社会の構成員の中で最も恵まれない人に、最も恩恵を与えるというロールズの考えにしたがうと、最も効用の低い人の効用を社会的厚生とみなすことになるので、社会的厚生Wはmin( uR , uF ) で示される。この無差別曲線は、図A4-1のように原点に対してL字型になる。たとえばフライデーの効用がロビンソンの効用よりも低いならば、社会的厚生の値はフライデーの効用の値となり、ロビンソンの効用がフライデーの効用よりどれだけ大きくても変わらない。これが図で45度線から下では、無差別曲線が横軸に平行になる理由である。同様のことは、ロビンソンの効用がフライデーの効用よりも低い場合にも成立し、45度線より上では無差別曲線は縦軸に平行になる。

1.2
図A4-1から明らかなように、点Qで社会的厚生は最大になる。つまり、効率かつ公平な点が選択される。





2.


ある財やサービスに対する独占企業は、その財やサービスに対する産業の需要を独占しているのだから、産業の需要曲線と独占企業の需要曲線とは一致する。したがって独占企業といえども産業の需要曲線に従わざるをえない。つまり価格を決定すれば、需要曲線の上で需要量は自動的に定まる。その価格のもとでそれぞれの消費者が効用を最大化するように決定した需要の合計である、産業の需要量に、企業はもはや影響を与えることはできない。それが可能であるケースは、宣伝や広告を通じて独占企業が消費者の需要量を操作できるときに限られる。


3.


この問題は純粋公共財の需要曲線の導出を通じて、なぜ純粋公共財が市場的に供給できないかを明らかにするものである。

3.1
純粋公共財には、簡単には共同消費性と非排除性の2つの性質がある。花火になぞらえれば、前者はロビンソンが花火を消費(見物)したからといって、フライデーの消費(見物)する分が低下しないことである。後者はどちらか一方が花火の費用負担を拒んだからといって、拒んだ人の花火見物を排除することは物理的に難しく、強行すれば高い費用がかかることである。まず共同消費性から、2人の花火についての需要曲線を垂直方向に加えると、全体の需要曲線が得られる。なぜなら、同じ花火の本数を同時に2人が消費しても、共同消費性のために、その本数に対するそれぞれの限界便益(各自の需要曲線の高さ)は変わらないので、そのまま加えることで社会的限界便益(全体の需要曲線の高さ)とすることができるからである(図A4-2(a)を見よ)。もしリンゴやミカンのような私的財ならば、ロビンソンが消費すればフライデーは消費できないから、全体の需要曲線を得るためには、2人の需要曲線を水平方向に加えなければならない。

3.2
社会厚生を最大化するには、限界費用曲線と設問3.1でもとめた需要曲線の交点に対応する規模で、花火大会を実施すればよい(図A4-2(b)を見よ)。その際、費用負担はこの規模に対応する各自の限界便益の大きさ(つまり各自の需要曲線の高さ)に等しく設定すればよい。

3.3
もしロビンソンが嘘をついて、本来の需要曲線よりも低い位置にある需要曲線を申告して、費用負担を軽くしても、規模は縮小されるが花火大会は実現し、共同消費性と非排除性によってロビンソンは花火大会を楽しむことが出来る。つまりロビンソンはフリーライダーになれる。しかし、嘘の申告による2人の需要曲線と限界費用曲線の交点は、社会的には効率的ではなく、厚生損失が発生する(理由を考えることは読者に任せよう)。こうして、人々が公共財に対する費用負担を少なくするために、限界便益を過少申告して、フリーライダーになることが可能であるために、純粋公共財の市場的な資源配分は不可能になる。この例のように2人からなっているような社会の場合には相互の監視が可能なため、フリーライダーが発生する可能性は低いが、多数の人々から構成される現実の社会では、その可能性はいっそう高くなる。この問題は、なぜ人々は政府を自ら設定し、強制的な徴税権を認めるかという基本的な問題についての、単純な説明でもある。




 社会的限界便益曲線(「2人の需要曲線」)は、それぞれの需要曲線を垂直に足して得られる。たとえば、花火の本数がX のとき、2人ともX を消費できる。このとき、ロビンソンの限界便益はpR で、フライデーの限界便益はpF である。したがって、花火の本数がX のとき、社会的便益はpS=pF+pR となる。





 右下がりの実線は、(a)でもとめた社会的限界便益曲線(「2人の需要曲線」)で、点線はロビンソンの限界便益(需要)曲線。このとき、X*が最適な花火大会の規模である。

第5章のQuestionとAnswer

第5章:Question



1
.


所得の期待値と期待効用の違いはどこにあるかを説明しなさい。


2.


第3節で保険について学習したときには、保険金の支払いにかかわるさまざまな手数料を無視していた。そうした費用がすべて保険料に転嫁されると、保険への加入は割高になる。保険金が事故による損失を完全にカバーするという保険に対して、保険料がいくらの高さまでなら、(危険回避型の)人々は加入しようとするだろうか。適切な図を用いて分析しなさい。


3.


才能豊かなベンチャー・ビジネスの若き経営者のシゲルは、1,000万円の資金を元手に、新しい事業を起こそうと思っている。シゲルが考えているのはAとBの2つの事業分野である。A分野への投資には次のような意味でリスクがある。つまり、Aに投資をすると、それが成功した場合、1万円当たり5,000円の利益が見込まれるが、失敗した場合は1万円当たり3,000円の損失である。このA分野で成功する確率は投資額とは独立に50%である。一方でBに投資をすると必ず成功し、1万円当たり1,000円の利益が生まれる。シゲルは手持ちの資金をAとBへ自由に分けて投資できるとして、以下の設問に答えなさい。

3.1
A分野で「成功」した場合の所得をY1、「失敗」した場合の所得をY2として、シゲルの予算制約式を表し、かつ図示しなさい。

3.2
シゲルは、所得にだけ依存する危険回避型の効用関数をもっているとしよう。シゲルが期待効用を最大にするように投資の仕方をきめるとき、上の3.1で描いた図を適切に補って、シゲルの投資行動を分析しなさい。

3.3
シゲルが危険愛好型の効用関数をもっているとした場合について、上の3.1で描いた図を適切に補って、その投資行動を分析しなさい。


4.


金融資産として、ある会社の株式と国が借金のために発行する国債の2つがあるとしよう。これらの資産市場に参加する投資家は全員危険回避型であり、次のような予想をもっているとしよう。株式については、将来「好況」になると、1株当たりの配当は5,000円で株価は2万円になるが、「不況」になると、配当はなく、株価は1万円になると予想されている。一方で、国債の利子は景気とは無関係に500円で、将来の国債価格も景気とは無関係で5,000円になることが予想されている。また、「好況」の確率は40%、「不況」の確率は60%と予想されている。このとき、次の設問に答えなさい。

4.1
今期における株式の価格をP、国債の価格をQとしよう。どの投資家も将来に株式または国債を売却してどれだけの利益が得られるか(あるいは損失になるか)を考える。このとき、株式と国債の予想収益率の期待値を式で表しなさい。

4.2
今期の資産市場の均衡で、株式の予想収益率の期待値が国債の予想収益率の期待値を上回っていなければならないことを説明しなさい。


5.


家族や地域における小さな助け合いを「互助組合」とよぶことにしよう。「互助組合」に加入する人の数には限りがあるので、大数の法則は成立しない。しかし、人々が危険回避的であるとき、加入者が増えるにつれて、各人の期待効用は増大していくと予想される。この予想が正しいことを確認するために、どの個人も事故にあう(病気になる)確率は10%、最初にもっている所得は25万円、事故にあうと20万円が失われるとし、どの個人も所得にだけ依存する、同じ危険回避型の効用関数をもっているとしよう。このとき、たとえ2人でも「互助組合」をつくることで各人の期待効用が高まることを説明しなさい。

第5章:Answer



1.


わからなかったら、本文の第1節を読み返してみよう。


2.


図A5-1には危険回避型の効用関数が描かれている。横軸が所得、縦軸が効用である。このとき縦軸のvは、保険に加入しないことの期待効用であり、

=0.9u (25) + 0.1・u (5) 

である。人々が保険に加入するのは、この値よりも大きな期待効用が保険に加入することで得られる場合である。完全カバーの保険では、「無事」のときの所得と「事故」のときの所得が等しくなる。その所得をxと表すと、u (x)が保険加入の期待所得である。したがって、人々が保険に加入するには、u (x)≧Ⅰとなっている必要がある。そこで、この条件を満たす、もっとも小さなxをもとめると、x*になる。したがって、保険料が25-x*円以下であれば、人々はこの保険に加入する。



3.


これは資産選択論の応用問題である。

3.1
A分野への投資をa 万円としよう。すると、「成功」の場合の所得をY1、「失敗」の場合の所得をY2と表せば(単位は万円)、

Y1=1.5a +1.1(1000-a)= 0.4a +1100

Y2=0.7a +1.1(1000-a)=-0.4a +1100

となる。この2つの式からaを消去すると、

Y2=-Y1+2200   1100≦Y1≦1500

である。これがシゲルの予算制約条件になる。図示すれば図A5-2の線分ABで表せる。


3.2
図A5-2に原点に対して凸となる無差別曲線を描き込んで分析すればよい。最適点はB点になる。そこで、限界代替率=相対価格=1が成立するのである。したがって、シゲルはすべての資金をB分野に投資をする。

3.3
シゲルはすべての資金をA分野に投資する。 図A5-2に描き込むべき無差別曲線は、原点に凹の形になる。点Bでは予算制約線に無差別曲線が接するが、そこでは期待効用が最小になってしまう。A分野に資金をシフトすることで期待効用を高くできるのである。



4.


4.1
株式の予想収益率は、

( 0.4・25,000 +0.6・10,000-P)/P
=(16,000-P)/P

国債の予想収益率は、

(5,500-Q )/Q


4.2
株式の予想収益率が国債の予想収益率に等しいか、あるいはそれよりも低いとすれば、どの投資家も危険回避型であるために、不確実性のある株式を売却し、安全な国債を購入しようとするはずである。したがって、株式市場では超過供給、国債の市場では超過需要になって、資産市場の均衡に反する。このとき、株式の価格が下落し、 国債の価格が上昇する。したがって、資産市場の均衡では、株式の予想収益率が国債の予想収益率を上回っていなければならない。このとき「いくら上回っていなければならないか」を示す値のことをリスク・プレミアムとよぶ。



5.


「互助組合」がない場合の期待効用は、

0.9u (25) + 0.1u (5)

である。
「互助組合」が2人からできている場合、起こりうる出来事(状態)とその確率は、次のようになる。


イとハの場合には、所得を再分配する意味がない。しかし、ロの場合は、無事だった人から事故にあった人に10万円の所得を移転するという契約を事前に結ぶことができる。すると、各人の期待効用は、

0.81u (25)+0.18u (15)+0.01u (5)

となる。この値から「互助組合」がない場合の期待効用を引いて整理すると、

0.81u (25)+0.18u (15)+0.01u (5)-{0.9u (25)+0.1u (5)} =

0.18[u (15)-{0.5u (25)+0.5u (5)}] >0

が成立する(0.5×25+0.5×5=15に留意すると、効用関数が危険回避型なので u (15)> 0.5u (25) + 0.5u (5) となる)。

第6章のQuestionとAnswer

第6章:Question



1
.


ある公共性の高いサービスを供給している企業と政府のあいだの次のようなゲームを考える。この企業には2つの戦略がある。1つは、経営努力を惜しまず、赤字を抱えないことである。もう1つは、経営努力を怠って、経営破綻のリスクを冒すことである。一方、政府の選択は、この企業が経営努力を怠って破綻した場合に、救済するかどうかである。サービスの供給を維持するには、救済する必要がある。しかし、その場合には、国民から集めた血税を使わなければならない。このゲームが、次ページの図6-4のようなゲームの木で表されるとして、以下の設問に答えなさい。

1.1
このゲームを戦略形で表現しなさい。

1.2
このゲームの(純粋戦略での)ナッシュ均衡をすべて書き出しなさい。

1.3
バックワード・インダクションを使って、もっともらしいナッシュ均衡でどんなことが起こるかを説明しなさい。

1.4
このゲームと似たような状況を、あなたの生活のまわりや、テレビ・新聞などのニュースなどから題材を見つけて論じなさい。


2.


第4章で学んだ公共財をめぐるフリーライダー問題を、囚人のジレンマ・ゲームを用いて説明する工夫を試みなさい(ただし、問題の状況を適切にとらえた利得表を作成し、それに基づいて論じること)。



3.


ある商品市場で開発が見込まれる商品コンセプトには2通りがあり、それらを商品Aと商品Bとしよう。マーケット・リサーチによれば、潜在的な購買層aは、商品Aの価値(効用)を300円と評価し、商品Bの価値(効用)を120円と評価すること、これに対して、購買層bは、商品Aの価値(効用)を120円と評価し、商品Bの価値(効用)を300円と評価することが、それぞれ予想されている。各購買層の規模は1,000人である。市場にはヒデ社とタッキー社の2社があり、どの会社にとっても、商品A、Bともに商品の開発費用は10万円、製造単価は100円で、製造にかかわる固定費用は不要であることが見込まれている。ただし、どの会社も個々の顧客がどの層に属しているかについての区別はつかないとする。このとき、以下の設問に答えなさい。

3.1
ヒデとタッキーが同じ商品を開発してしまった場合、価格競争ゲームにおけるナッシュ均衡ではどのような価格が付けられるようになるかを検討しなさい。そのとき両社の利潤(開発費用も考慮した利潤)がいくらになるかも述べなさい。

3.2
ヒデとタッキーが互いに異なる商品を開発した場合の価格競争ゲームを考え、ナッシュ均衡をもとめなさい。また、ナッシュ均衡における両社の利潤(開発費用も考慮した利潤)はいくらになるかも述べなさい。

3.3
サブゲーム完全均衡の考え方を応用して、ヒデとタッキーがお互いに異なる商品を開発する(製品差別化する)可能性を検討しなさい。


4.


ある工場での話である。工場監督のトンさんと怠け者の従業員ブギーのゲームを考える。ブギーには「マジ」で働くのが苦痛で、できれば手抜きをしたい。しかし、さぼったのがばれたら、給料がカットされるか、首になってしまう。監督のトンさんは、会社の利益のことも考えてはいるが、ブギーの仕事ぶりをきちんと監視(モニター)するのは苦痛である。ブギーがしっかり働くなら、監視する苦痛は余分だ。そこで、ブギーには「マジ」か「サボリ」の選択、トンさんには「監視する」か「監視しない」の選択があるとして、次のような利得表(表6-5)を考えてみた。この表に表されるようなゲームについて、以下の設問に答えなさい。

4.1
この利得表に表れているトンとブギーの利得に、もっともらしい解釈を与えなさい。

4.2
このゲームには、純粋戦略でのナッシュ均衡は存在するか。もし、存在しないのであれば、混合戦略でのナッシュ均衡をもとめなさい。

4.3
これと似たような状況の例をほかにもあげなさい。



5.


2.4節の最後でヒデとタッキーが参入・退出の意思決定と(参入するあるいはしつづけるとした場合の)価格の決定を同時にできるとすれば、タッキーが独占を維持するという状態は、もはや均衡ではない、と述べてある。その理由を考察しなさい。

第6章:Answer



1.


基本事項が理解できたかを問う問題である。

1.1
表A6-1のような利得表ができる。



1.2
企業が「努力する」を選び、企業が「努力しない」を選んだときに政府が「救済しない」を選んでいる状態と、 企業が「努力しない」を選び、企業が「努力しない」を選んだときに政府が「救済する」を選んでいる状態の2つがナッシュ均衡である。

1.3
バックワード・インダクションを満たすナッシュ均衡では、企業が「努力しない」で、政府が「救済する」という事態が起こる。

1.4
たとえば本書の中では、第10章の4.1節やその章末にある問題8で取り上げる例がこれに該当する。



2.


キョウコとタツヤ、2人からなる社会を考える。公共財の生産は税金で賄われる。2人が税金を10万円ずつ出し合ったときには、キョウコとタツヤのそれぞれに18万円の価値に相当する公共財が供給されるが、2人のうち1人が10万円を払うだけでは、9万円の価値の公共財しか供給できない。もちろん、誰も税金を払わないのであれば、公共財の供給はない。こうした状況は表A6-2のような利得表で表される。このとき、ナッシュ均衡では、両者が「税金を払わない」を選ぶので、公共財の供給は実現されない。



3.


この問題は少し難しいかもしれない。また、厳密にいうと、この問題を考えるためには第9章3.1節の知識(概念)を必要とする。理由は、会社側が個々の顧客のタイプを見分けられないからである。しかし、ここでは読者の常識に訴えて、提示された価格で購入するのはどの購買層かを、各社が合理的に判断できる(たとえば、商品Aに120円より高い値段が付いていれば、購買層bがその値段で購入することはないと判断できる)ことを前提としよう。

3.1
両社が、たとえば商品Aを開発してしまっているとしよう。同じ商品なので、どの顧客層も購入の利益があるなら安い方の企業から買うので、価格競争ゲームのナッシュ均衡での両社の価格は、製造単価の100円に等しくなる。このとき、両社の利潤は、開発費用を考慮すると、-10万円になる。

3.2
ヒデがA、タッキーがBをそれぞれ開発したとしよう。ナッシュ均衡は、両社が300円(よりもほんの少し低い価格)を付けて、両社の利潤が(300-100)×1000-10万=10万円になるという場合である。このとき、ヒデの顧客は購買層aで、タッキーの顧客は購買層bである。なぜナッシュ均衡になるのかを考えよう。ヒデの立場に立とう。タッキーがBに300円を付けて、購買層bを引き付けているとき、ヒデがAに300円以外の価格を付けて利益をもっと上げようとするには、タッキーから購買層bを奪わなければならない。しかし、購買層bに商品Aを買ってもらうには、Aの価格を120円未満にしなければならない。そこでAの価格を120円(よりもほんの少し低い価格)にするとしよう。このとき、ヒデの利潤は (120-100)×2000-10万=-6万円となる。これは明らかに損である。したがって、Aの価格を300円に据え置いたほうが良い。タッキーにつても同じ論理が当てはまる。したがって、両社が300円を付ける状態はナッシュ均衡である。これ以外にナッシュ均衡がありうるかどうかの検討は読者に任せよう。

3.3
3.1の答えから、「両社が同じ商品を開発してしまったら」という前提で始まるサブゲームでは、お互いに価格を100円にして、利潤は-10万円になり、一方で3.2の答えから、「両社が異なる商品を開発したら」という前提で始まるサブゲームでは、お互いに300円を付け、利潤は10万円になる、と両社が予想するとしよう。したがって、商品開発ゲームでの利得表は表A6-3のようになる。



このゲームでの(純粋戦略での)ナッシュ均衡は、ヒデがA、タッキーがBをそれぞれ開発するという場合と、逆にヒデがB、タッキーがAをそれぞれ開発するという場合の2つである。いずれの場合も両社が異なる商品を開発することになり、お互いにダメージとなる値下げ競争に陥ることが回避される。



4.


混合戦略でのナッシュ均衡についての問題。

4.1
問題文の説明をもう少し具体的に利得表の各数値に当てはめてみよう。

4.2
本文の第3節で説明したマッチング・ペニーと同じで、純粋戦略でのナッシュ均衡は存在しない。混合戦略でのナッシュ均衡は、次のようになる。

  トンの戦略:2 /5の確率で「監視スル」、
  3 /5の確率で「監視シナイ」

  ブギーの戦略:1 /2の確率で「マジ」、
  1 /2の確率で「サボリ」

これがナッシュ均衡となることは、本文で説明した方法で確認できるはずである。

4.3
「徴税する側」と「納税する側」、「取り締まる側」と「取り締まられる側」など法やルールの執行にかかわる問題状況は、このゲームで記述できる。


5.


タッキーだけが参入し、独占価格300円を付けているときに、ヒデは参入と同時に300円よりほんの少し低い価格を付けることで、タッキーからすべての顧客を奪い、利益を上げることができる。したがって、タッキーだけが参入し、独占価格300円を付けるという状態は、もはやナッシュ均衡ではない。
第7章のQuestionとAnswer

第7章:Question



1
.


最近、こんなゲームが流行っている。プレイヤーはリョウとアツシで、最初にリョウが「1」、「1、2」、「1、2、3」のいずれかをいう。次に、仮にリョウが「1、2」といったら、次はアツシの番で、アツシは「3」、「3、4」、「3、4、5」のいずれかをいう。そこで仮にアツシが「3」といったら、またリョウの番で、リョウは「4」、「4、5」、「4、5、6」のいずれかをいう。こんな風に、相手がいった最後の(もっとも大きな)数字(自然数)がNであれば、「N+1」「N+1、N+2」、「N+1、N+2、N+3」のいずれかを選ぶものとする。このゲームを1から始めて、最初に10といってしまった者が負けとしよう。このゲームについて、以下の設問に答えなさい。

1.1
このゲームにおけるサブゲーム完全均衡で、勝者がリョウになることを説明しなさい。

1.2
最初に100といった人が負けとして、あなたの彼女(彼氏)か、または友だちとこのゲームをプレイしてみなさい。その結果と、サブゲーム完全均衡で予測される結果を比較しなさい。


2.


J国とA国の間で貿易摩擦が問題になっているとしよう。両国のとる貿易政策と両国の利益の関係が、表7‐5のような利得表で表されるとして、以下の設問に答えなさい(この表は、伊藤元重・奥野正寛編『通商問題の政治経済学』、日本経済新聞社、1991年、の129ページから引用)。

2.1
このゲームが1回きりで終わる場合のナッシュ均衡をもとめなさい。また、2回くり返される場合のサブゲーム完全均衡について検討しなさい。

2.2
このゲームにおける貿易の自由化は、J国が「コメの輸入制限撤廃」を選択し、A国が「自動車の輸入制限撤廃」を選択して、実現される。このゲームが無限回くり返されるとしよう。このとき、両国の割引因子が十分に高いならば、貿易の自由化がナッシュ均衡としても、また、サブゲーム完全均衡としても実現できることを説明しなさい。同様にして、両国が「部分的な輸入規制」を選ぶという状態も、ナッシュ均衡として、さらには、サブゲーム完全均衡としても実現できることを説明しなさい。

2.3
今までの設問での答えを踏まえて、貿易摩擦を2国間だけの「かけひき」で解決することに、どんなむずかしさがあるのかを論じなさい。



3.


ある家系(家族)または地域住民が世代を通じて永久に存続するとしよう。このとき、親子のあいだの、あるいは地域における若者と老人のあいだの次のような「かけひき」を考える。子は親が老いて介護が必要になったときに世話をするかどうかをきめる。世話をすることになれば、一定の時間を割くために、機会費用が発生する。一方で、自分が老いて、子(若者)から世話を受けられるならば、それは便益となる。こうしたことを踏まえ、生涯の利得が、表7‐6のようにまとめられるとしよう。また、どの世代の子(若者)も、自分より前の世代の若者がどのような選択をしてきたかという、過去の経緯を知っているとしよう。このとき、以下の設問に答えなさい。


3.1
この世代間のゲームで、どの世代の若者も「親の世話をしない」を選択するという状態がサブゲーム完全均衡として実現されることを説明しなさい。

3.2
この社会の伝統は“親孝行”である」とすれば、どの世代も子が「親の世話をする」という状態がくり返されることになる。こうしたことがサブゲーム完全均衡として実現されうることを説明しなさい。

第7章:Answer



1.


この問題の趣旨は、ゲームが長期にわたるときに、先を見越した戦略の決定が可能かどうかを、読者に実験してもらうことである。設問の1.2での実験は、本当はこの本を読んでいない人にやってもらったほうがいいかもしれない(理由は?)。

1.1
相手の最後の数字が9であったら、明らかにこっちの負けである。次に、相手の最後の数字が6、7あるいは8という状態から始まるサブゲームを考えよう。すると、こちらはそれぞれ「7、8、9」、「8、9」、「9」と言うことで勝つことができる。このことを踏まえて、相手の最後の数字が5という状態から始まるサブゲームを考えよう。この場合には、「6」、「6、7」、「6、7、8」のいずれを言っても、相手にそれぞれ「7、8、9」、「8、9」、「9」と言われるので負けてしまう。相手の最後の数字が4という場合を考えよう。この場合、明らかに「5」と言うことで最終的に勝つことができるが、それ以外では負けてしまう。同じ論理で、相手の最後の数字が3という場合には「4、5」と言うことで最終的に勝つことができるが、それ以外では負けてしまい、相手の最後の数字が2という場合には「3、4、5」と言うことで最終的に勝つことができるが、それ以外では負けてしまう。相手が1と言った場合を考えよう。この場合、「2」、「2、3」、「2、3、4」のいずれの場合も、相手にそれぞれ「3、4、5」、「4、5」、「5」と言われて最終的に負けてしまう。したがって、最初の人が「1」と言えば、その人の勝ちである。  

1.2
サブゲーム完全均衡で予測されるのは、最初の人が「1,2,3」と言って、最終的に勝つというものである。実は先手か後手ですでに勝負がきまってしまうというこのような例は、もっと複雑なゲーム(オセロなど)にも存在すると聞いている。しかし、そうであれば、ゲーム(遊びの)の楽しみは何処にいってしまうのだろうか。


2.


くり返しゲームの貿易摩擦問題への応用。

2.1
1回きりのゲームではJ国「コメの輸入禁止」、A国「自動車の輸入禁止」が均衡、2回きりのゲームでは、この均衡がくり返される。

2.2
本文での方法を使ってトリガー戦略を構成できるはずなので、詳しいことは省略しても問題がないだろう。興味深い点は、両国が「部分的な輸入規制」を選ぶという状態も、ナッシュ均衡として、さらには、サブゲーム完全均衡としても実現できることである。

2.3
さまざまな均衡の可能性が出てきてしまうことに注目して議論する。


3.


3.1
自分も含めた過去の世代が親の世話をしたか、しないかに関係なく、自分の老後に子どもが世話をしてくれないのがわかっているなら、明らかに自分も「親の世話をしない」ほうが有利である。このことは、どの世代にも当てはまるので、どの世代の若者も「親の世話をしない」を選択するという状態がサブゲーム完全均衡として実現される。

3.2
サブゲームを次のように2つに分類する。今までのどこかの世代で若者が親の世話をしなかった場合を「親不孝」、今までのどの世代の若者も親の世話をしてきた場合を「親孝行」とよぼう。そして、「親不孝」での各世代の若者の戦略を「親の世話をしない」、「親孝行」での各世代の若者の戦略を「親の世話をする」としよう。すると、これらの戦略がサブゲーム完全均衡を構成し、どの世代も子が「親の世話をする」という状態がくり返されることになる。つまり、「親の世話をする」ことがこの社会の伝統となることを、サブゲーム完全均衡として説明できる。
第8章のQuestionとAnswer

第8章:Question



1
.


ある製品のメーカーA社と部品メーカー(下請メーカー)B社が、部品の納品価格をめぐって交渉するものとしよう。Aの製品にはBの作る部品が不可欠であり、Bにしても、この部品はAの製品にしか使えないとしよう。Aは、この部品1単位を投入することで、製品1単位を作ることができる。その販売からの収入は1万円である。一方で、部品メーカーにとって部品1単位の製造には7,000円の費用がかかる。A社とB社の将来の利益に対する割引因子は同じ0.5であるとして、以下の設問に答えなさい。

1.1
A社(部品の買い手)だけが価格の提案をするとしよう。つまり、価格の決定権はA社にあるとしよう。このとき、A社の提案する価格はいくらになるか。その結果として、A社とB社の利益はそれぞれいくらになるか。バックワード・インダクションの考え方を使って説明しなさい。

1.2
最初にA社が価格を提案し、B社がそれを拒否したら、今度はB社が反対提案し、という風にして、どちらかが「OK」といって妥結するまで、交渉が続けられるものとしよう。このとき、A社は最初の提案でどのような価格を提示することになるか。また、そのときにA社とB社の利益はそれぞれいくらになるか。サブゲーム完全均衡の考え方を用いて説明しなさい。

1.3
A社には、B社の部品が不可欠であることに変わりはないが、製品の質を高めて前よりも高い価格で販売できるようにする投資が可能であるとしよう。投資の結果、A社の販売収入は13,000円になる。ただし、その投資は、部品の投入に先行して実施しなければならず、もちろん費用がかかる。このとき、A社がこの投資を実行するかどうかは、部品の納品価格をめぐるB社との交渉に依存し、A社に価格決定権がある場合には実行されやすいが、そうでないならば、実行されないこともありうる。この点について検討しなさい。なお、この問題は、価格決定権のあり方しだいでは有益な投資活動が実施されない可能性があるということであり、ホールドアップ問題とよばれている。


2.


ある財(またはサービス)1単位にかんする取引をめぐって、1人の売り手(S)が2人の買い手(B1とB2)と交渉する場面を考える。いわば3人での交渉ゲームである。売り手Sにとって、この財の価値は0円に相当する(つまり価値がない)。あるいは製造のための費用が0円である。一方で、買い手B1にとってのこの財の価値、つまりこの財に最大限払ってもいいと考えている価格はb1円、買い手B2にとっての価値はb2円として、次のような大小関係が成り立っているとしよう。b2>b1>0。また、3人の割引因子は同じδ(δは0と1のあいだの値)で表されるものとしよう。
交渉は次のように3期間にわたって展開する。最初にSが提案する。Sは買い手を選び、その買い手に販売価格を提示する。その買い手がSの提案を受け入れれば、そこでゲームは終わる。そうではなく、その買い手が拒否したとしよう。すると、今度はその買い手ともう1人の買い手が同時に価格の反対提案をする。Sは売るかどうかをきめ、売るとすればどちらに売るかをきめる。Sが両方の買い手の提案を拒否すれば、話は元に戻る。再びSは買い手を選び、その買い手に販売価格を提示するのである。そこでの提案が買い手に拒否されるならば、ゲームは終わる。
そこで、このゲームを完備情報という条件のもとで分析し、売り手が最初に提示する価格がどのようになるか、その結果、売り手と2人の買い手の利益がそれぞれどのように表されるかを検討しなさい。

第8章:Answer



1.


この問題は、部品メーカーと組み立てメーカーが1つになるといったような、いわゆる企業の垂直的統合の問題、あるいは企業組織の境界の問題などを考察するときに、交渉ゲームの考え方が活用できることを示す例である。

1.1
A社の提案する価格は、7,000円(よりほんの少し低い価格)である。 A社はこの価格を最初の回に提示し、B社がそれを(しぶしぶ)受け入れることになる。その結果、 A社の利益は3,000円、B社の利益は0円になる。このことは本文の第1節の考え方を応用すれば容易に導かれる。本文と違うのは、売り手側ではなく、買い手側が価格を何回でも提案できるという点である。

1.2
A社の提案する価格は、8,000円(よりほんの少し低い価格)である。 A社はこの価格を最初の回に提示し、B社がそれを(しぶしぶ)受け入れることになる。その結果、 A社の利益は2,000円、B社の利益は1,000円である。この結論に導くには、本文の2-2節の考え方を応用する。レナ(買い手)をA社、タッキー(売り手)をB社におきかえ、それに対応して300円を1万円、 50円を7,000円におきかえる。2社とも割引因子が0.5であることを考慮して、A社の提案からスタートして、どちらかがOKするまでは、提案と反対提案が交互に起こる交渉ゲームを考えればよい。 A社の提案から始まるサブゲームで、 A社は8,000円を提示し、B社がそれを受け入れる。このとき、A社の利益は2,000円で、B社の利益は1,000円となる。一方で、B社の提案から始まるサブゲームで、B社の提案価格は9,000円である。この場合、A社の利益は1,000円で、B社の利益は2,000円となる。この交渉はA社の提案から始まるので、前述のような結論になる。

1.3
A社に価格決定権があるとしよう。すると、投資後も部品価格は7,000円になるので、 A社の利益は6,000円になる。したがって、投資による利益の増加は3,000円である。したがって、投資の費用が3,000円以下であれば、 A社は投資を実行するだろう。次に、A社に価格決定権がなく、B社にも反対提案の余地があるとして、1.2のような形で交渉が進むとしよう。すると、投資後のA社の提案価格は9,000円になる。このとき、 A社の利益は4,000円である。したがって、投資による利益の増加は2,000円である。投資が実施されるのは、その費用が2,000円以下の場合であるから、 A社に価格決定権がなく交渉力が弱いと、この投資が実施されない可能性が出てくる。A社がB社を買収して、統合してしまえば、この問題は発生しないことになる。こうしたことから、組み立てメーカーによる部品の内生化を説明できるのであり、米国における自動車産業では、たしかに内生率が高いのである。では、日本の場合はどうだろうか(あるいは、過去どうだったろうか)。この辺りから「組織の経済学」への船出となる。その際、第10章で学ぶ知識も有効に活用できるはずだ。


2.


交渉の当事者の数が買い手側または売り手側(あるいは双方)で増えると、競争のメカニズムが働く。この点を検討するのがこの問題の趣旨である。
3期目になってSが2回目の提案をするとしよう。すると、Sは、B2に対してb2円(よりほんの少し低い価格)を提示するだろう。それをB2は受け入れる。したがって、2期目で、買い手による価格提案を拒否するSの利益はδb2円となる。すると、2期目でSが受け入れるような価格はδb2円以上でなければならない。このことを考慮に入れながら、2人の買い手が互いに競争する、と考えればよい。ここで場合分けをしよう。
もし、b1<δb2であれば、買い手B1はすぐに競争から脱落する。わざわざ、δb2円以上の価格で買おうとはしないからである。このとき、買い手B2δb2円(よりほんの少し高い価格)を提示し、Sがそれを受け入れるのである。買い手B2の2期目での利益は(1-δ)b2円、買い手B1の利益は0円である。では、1期目にSはどのような提案をするだろうか。拒否されるような提案をすれば、Sの利益はδ2b2円である。一方で、買い手B1が受け入れる価格の上限はb1円であり、買い手B2が受け入れる価格の上限は{1-δ(1-δ)}b2円 である(理由は?)。ここで1-δ(1-δ)>δであることを考慮しよう。すると、b1<δb2と仮定しているから、Sにとって有利なのは、B2に{1-δ(1-δ)}b2円(よりほんの少し低い価格)を提示することである。この{1-δ(1-δ)}b2円がそのままSの利益となる。また、B2の利益はδ(1-δ)b2円、B1の利益は0円となる。
次に、b1δb2の場合を考えよう。このとき、買い手間の競争の結果、価格はb1までつり上げられる。買い手B2は、b1よりもほんの少し高い価格を提示することでB1に打ち勝つことができる。買い手B2の2期目での利益は(b2-b1)円、買い手B1の利益は0円である。では、1期目にSはどのような提案をするだろうか。拒否されるような提案をすれば、Sの利益はδb1円である。一方で、買い手B1が受け入れる価格の上限はb1円であり、買い手B2が受け入れる価格の上限は{ (1-δ) b2+δb1}円 である(理由は?)。b2>b1を仮定しているから、(1-δ)b2+δb1>b1である。したがって、Sは、{ (1-δ)b2+δb1}円(よりほんの少し低い価格)をB2に提示することが最も有利である。この{ (1-δ)b2+δb1}円がSの利益であり、B2の利益はδ(b2-b1)円、買い手B1の利益は0円である。この問題では、交渉を3期目までとしたが、決着するまで何回も上のような交渉が続くという場合も検討してみよう。
第9章のQuestionとAnswer

第9章:Question



1
.


表9-2の利得表で表されるゲームは、第6章の2.6節で登場した、「開発をめぐるかけひき」と同じ性質をもっている。2人がとれる(純粋)戦略は、投資をするか、しないかである。crはタッキーが開発投資する場合の費用、cHはヒデが開発投資する場合の費用である。100は一方だけが開発投資したときにもたらされる粗利潤を表している。
ただし、相手の開発費用にかんして、お互いに情報が不完備である。どちらも、相手の開発費用が0以上100未満の範囲にあり、その範囲のどの値も同じ確からしさをもっていると予想しているとしよう。そこで、次のヒントを参考にしながら、このゲームのベイズ的ナッシュ均衡をもとめなさい。

(ヒント)
このゲームには3つの均衡がある。そのうちの1つの均衡では、投資をするかどうかの選択がその人のタイプ(開発費用)に依存している。そのとき、開発費用が低い人ほど開発する可能性が高いと推測してみよう。ある開発費用の水準があって、その水準よりも低い人は投資をするが、高い人は投資をしないだろうと考えてみる。そして、その水準をきめるのは、相手がどんな確率で投資をしてくるかである。



2.


両親と3人の娘からなる家族がいて、今度の日曜日に海水浴に出かけるか、家でゴロゴロしているかをきめるとしよう。ただし両親はまったく中立的な立場にいる。娘3人の意見を聞きながら、最終的な判断をするのは、この両親である。娘の名前はA子、B美、C華で、A子、B美、C華にとって海水浴の効用はお金で測ってuAuBuC(円)である。また、海水浴にかかる費用はK(円)である。一方で、家でゴロ寝の効用は3人とも0(円)としよう。両親は海水浴に出かける条件を、3人娘の効用の和(uA+uB+uC)がその費用K以上であることとした。ところが、この両親は、どの娘についても海水浴の効用をまったく把握していないし、娘も自分の効用以外はわかっていない。そこで、どの娘も「良い子」で、両親の決定にはしたがうことを前提にして(つまり「個人合理性」の条件が必ず満たされると仮定して)、次のようなメカニズムが工夫された。
それぞれの娘に海水浴の効用を申告させる。A子、B美、C華が申告する海水浴の効用を、vAvBv3と表そう。このとき、3人の申告の結果、vA+vB+vCKとなったら海水浴を実施し、そうでなければ実施しない。娘への「移転支払い」は次のようにする。A子に対しては、3人の申告の結果、vA+vB+vCKとなったならば(つまり実施になった場合には)、vB+vC-K(円)を支給し、そうでないときには(つまり実施しない場合には)支給額を0とする。すなわち、実施となった場合の支給額は、自分以外の娘(姉妹)が申告した効用の和から費用を引いたものとするのである。B美とC華に対する移転支払も同じように考える。
さて、このように工夫されたメカニズム(これはピボット・メカニズムとよばれている)について、以下の設問に答えなさい。

2.1
A子の利益(利得)が、自分の申告と自分以外の娘たち(姉妹)の申告にどのような形で依存することになるかを、検討しなさい。

2.2
A子の立場に立ってみよう。自分(A子)以外の娘たちの申告を与えられたものとしたとき、自分が申告を変えることで自分自身の利益に影響が出るのはどのような場合か、検討しなさい。

2.3
3人娘による「申告ゲーム」を考えよう。このゲームでは、どの娘にとっても、ほかの娘たち(姉妹)がどのような値を申告をしようが、自分の真の効用を申告することが、偽の値を申告するよりも有利になるか、そうでなくとも不利にはならない(これは、第6章の2.2節の説明にしたがえば、真の効用の申告が「弱く支配する戦略」になっていることを意味する)。このことを証明しなさい。

2.4
本文で説明してある「誘因両立性」と、上記の2.3で証明された「誘因両立性」との違いを論じなさい。

2.5
このメカニズムによってたしかに両親の目標が達成できることを確認しなさい。その上で、このメカニズムが両親にどのような負担をもたらすかを、検討しなさい。


3.


ある市場でX社とY社という2つの会社が張り合っていて、この「かけひき」が2期間にわたって行われるとしよう。話を簡単にするために、1期目にはX社だけが「友好的」と「攻撃的」という2つの戦略から1つを選び、2期目にはY社だけが「市場にとどまる」と「市場から撤退」の2つの戦略から1つを選ぶと考えよう。X社には2つのタイプがある。1つは〈タフ〉、もう1つは〈ソフト〉である。ここで、〈タフ〉の場合は、どんなときも「攻撃的」戦略しかとれないと仮定しておこう。各期における戦略と利益(利得)の関係は表9‐3で表されている(ただし、〈タフ〉なX社の利益については、戦略を選択する余地がないので省略しよう)。2期目では、Y社の「市場にとどまる」場合の利益がX社のタイプに依存していることに注意しよう。また、X社は1期目には2期目の利益を割引因子δで割り引いて評価するとしよう。そこで、Y社は当初(1期目では)X社のタイプを半々に、つまり〈タフ〉の確率を1/2、〈ソフト〉の確率を1/2と予想していると仮定して、以下の設問に答えなさい。

3.1
このゲームの展開を「ゲームの木」で表し、情報集合を明示しなさい。ただし、利得は1期目で評価した値とする。また、〈タフ〉なX社の利得は省略されているので空欄のままでよい。

3.2
情報が完備で、X社のタイプが確実に〈ソフト〉であることがわかっている場合、X社とY社がとる戦略をバックワード・インダクションを使って説明しなさい。

3.3
次に述べてある戦略の組み合わせとbeliefが、完全ベイズ的ナッシュ均衡になっていることを説明しなさい。

δ≦1/2の場合〉
 (1)〈ソフト〉なX社は「友好的」を選択する。
 (2)X社が「友好的」であるとき、Y社のbeliefについては、X社が〈タフ〉である確率の1/2が改定されて0になる。そのとき、Y社は「市場にとどまる」を選択する。
 (3) X社が「攻撃的」であるとき、Y社のbeliefについては、X社が〈タフ〉である確率の1/2が改定されて1になる。そのとき、Y社は「市場から撤退」を選択する。

δ>1/2の場合〉
 (1)〈ソフト〉なX社は「攻撃的」を選択する。
 (2) X社が「友好的」であるとき、Y社のbeliefについては、X社が〈タフ〉である確率は0になる。そのとき、Y社は「市場にとどまる」を選択する。
 (3) X社が「攻撃的」であるとき、Y社のbeliefについては、X社が〈タフ〉である確率は1/2のままである。そのとき、Y社は「市場から撤退」を選択する。



4.


本章3.1節における不完備情報下の最後通牒ゲームを例にして、ベイズ的ナッシュ均衡と完全ベイズ的ナッシュ均衡の違いを述べ、どのような点で後者がもっともらしいのかを論じなさい。

第9章:Answer



1.


このゲームにおける3つの均衡のうち、2つは、一方がどんなタイプでも開発投資を実行し、もう一方がどんなタイプでも開発投資を実行しない、という形になる。つまり、ヒデがどんな費用であれ投資を実行し、タッキーがどんな費用であれ投資を実行しないという均衡と、逆にヒデがどんな費用であれ投資を実行し、タッキーがどんな費用であれ投資を実行しないという均衡である。これは容易に確かめられる。3つめの均衡では、ヒデもタッキーも、タイプ(開発費用)に対応した戦略をとる。
「 開発費用が50以下ならば、投資をするが、50より大きいならば、投資をしない」
相手の戦略をこのように予想するとすれば、相手が投資をするのは開発費用が50以下のときであるから、その確率は1 /2である。したがって、自分(タッキーの立場で考えよう)の開発費用がcTであれば、投資をする期待利得は、

(-cT)×1/2+ (100-cT)×1/2

となる。この値が開発をしない利得の0以上になるのは、cTの値が50以下のときである。したがって、「 開発費用が50以下ならば、投資をするが、50より大きいならば、投資をしない」という戦略が、たしかにベイズ的ナッシュ均衡となる。
解答は以上だが、ここで両者の費用が50であるということがお互いにわかっている(情報が完備である)場合のナッシュ均衡を考えてみよう。均衡の3つめは混合戦略で、2人が「投資の確率を1 /2、投資しない確率を1 /2」とするものである(確認してみよう)。この混合戦略は、上でもとめた3つめのベイズ的ナッシュ均衡とうまく対応しているのである。混合戦略という考え方にはあまり現実味がないと批判されることもあるのだが、相手のタイプに関して情報が不完備である、つまり、この場合では相手の開発費用が50のまわりの値をとるかもしれない不確実性を念頭におくと、それなりに正当化できるのである。この点を明らかにしたのも、ノーベル経済学賞を受賞したジョン・ハルサーニである。



2.


2.1
vA と申告してvA+vB+vCKとなった場合には、海水浴が実施されるので、A子の利益は、uA+vB+vC-K である。 これに対してvA+vB+vC<Kとなった場合には実施されないので0である。

2.2
vAと申告してvA+vB+vC≧Kとなる場合に、申告の値を小さくすることでvA+vB+vC<Kとなるときと、逆に、vAと申告してvA+vB+vC<Kとなる場合に、申告の値を大きくすることで vA+vB+vCKとなるときである。前者の場合、利益はuA+vB+vC-Kから0に変化し、後者の場合は、0からuA+vB+vC-Kに変化する。この2つの場合を除けば、申告の値の変更が利益に影響を及ぼすことはない。

2.3
A子の立場で考える。2.1での答から、自分の申告する値を変更することで、自分の利益が変化するのは、 vA+vB+vCKからvA+vB +vC<Kになる場合と、逆にvA+vB+vC < KからvA+vB+vCKになる場合である。そこで、まず uA+vB +vC≧Kの場合を考えよう。正直のままならば uA+vB+vC-Kが利益である。もし、vA+vB+vC<Kとなるように過少申告をすると、利益は0になる。いま、uA+vB+vCKの場合を考えたのだからuA+vB+vC-K≧0 である。したがって、このような過少申告は不利になるか、そうでないにしても有利になることは何もない。それ以外に、vA+vB+vCKとなるような申告(たとえば過大申告)をしても、利益は uA+vB+vC-Kのままである。同じようにB美、C華についても証明できる。

2.4
本文で考えた「誘因両立性」では、ほかの娘(姉妹)がどんなタイプ(真の効用の値)であるかについて確率的に予想し、その上でどのタイプがどんな申告をするかを推測して、自分がどんな申告をするのが有利になるのかを考えた。ここでは、そういう予想をいっさいする必要がない。自分にとって有利な、そうでなくても不利にならない申告は、ほかの娘たちがどんなタイプでどんな申告をするかにはまったく依存しないのである。そういう意味で、ここでの「誘因両立性」は、本文での「誘因両立性」よりも強い条件であるといえる。

2.5
このメカニズムでは、娘がみんな正直に申告をするので、海水浴が実施されるとすればuA+uB+uCKであり、両親の目標は達成される。しかし、そのときにA子への支払いはuB+uC-K、B美への支払いはuA+uC-K、C華への支払いはuA+uB-K で、合計は2(uA+uB +uC)-3K、これに海水浴の費用Kを加えると、2{uA+uB+uC-K }が両親の負担額となる。


3.


3.1
ゲームの木は、図A9-1のようになる。

 

3.2
X社が<ソフト>とわかっていれば、「友好的」か「攻撃的」かには関わらず、Y社は「市場にとどまる」を選ぶ。したがってX社は、「友好的」を選ぶ。

3.3
最初に<δ≦1/2の場合>の場合を考えよう。(2)(3)の後半は明らかであろう。したがって、Y社はX社が「友好的」であれば「市場にとどまる」し、「攻撃的」ならば「市場から撤退」する。そのとき、<ソフト>なX社にとって、「友好的」であることの利益は10(1+δ)であり、「攻撃的」であることの利益は-10+50δである。したがって、(1)のように「友好的」であることが選ばれるためには、10(1+δ)≧-10+50δでなければならない。これはδ≦1 /2と同じことである。したがって、たしかに(1)のとおりである。このとき、Y社のbeliefがベイズの定理によって(2)(3)の前半にあるように改定されるのである。
次に<δ>1/2の場合>を考えよう。(2)の後半は明らかであろう。そこで(3)の後半を考えよう。<タフ>の確率は1/2のままである。したがって、Y社にとって「市場にとどまる」ことの2期目における期待利益は、1/2×10+1/2×(-20) =-10となり、これは「市場から撤退する」利益の0よりも小さい。したがって、たしかにY社は「市場から撤退」を選ぶ。ゆえに、Y社はX社が「友好的」であれば「市場にとどまる」し、「攻撃的」ならば「市場から撤退」する。このことを踏まえると、10(1+δ)<-10+50δ、つまり、δ>1/2の場合 に、<ソフト>なX社が「攻撃的」を選ぶことがわかる。すると、X社が「攻撃的」であるとすれば、ベイズの定理によって、<タフ>の確率は1/2のままである。なお、この場合には、「友好的」という戦略は均衡では選ばれない。したがって「友好的」が観察された場合のbeliefにはベイズの定理が適用されないので、Y社が「市場にとどまる」ために<タフ>の確率が1/3以下であるという条件をのぞけば、任意である。明らかに(2)の前半は、この条件を満たしている。



4.


本文228ページにある図9-2の最後通牒ゲームを、戦略形で表現してみよう。すると、表A9-1のように、レナがアイス大好きである場合とほどほどに好きな場合の2つの利得表がつくれる。タッキーにはどちらの利得表が本当なのかハッキリわからないが、qの確率でレナがアイス大好きである場合が本当の利得表だと思っている。ところで、このように表されたゲームでは、q (0<q <1)がどのような値であろうと、次のような状況もベイズ的ナッシュ均衡の条件を満たしている。
「アイスが大好きなレナも、ほどほどに好きなレナも、「290円・買わない、200円・買う」を選択し、タッキーは価格を200円にする」
しかし、本文のようにバックワード・インダクションを使った推論をタッキーが行うとすれば、もしq ≧5/8 であるならば、この状態はもっともらしいとはいえないだろう。これに対して、本文で説明されているゲームの落ち着き先は、この点が考慮されており、完全ベイズ的ナッシュ均衡となっている。なお、こうしたことをもう少し詳しく学びたい人は、巻末に挙げた参考文献[12]などを参照のこと。





第10章のQuestionとAnswer

第10章:Question



1
.


これから事業を始めようと考えているシュー君と銀行Bのあいだのゲームを考えよう。シュー君は1,000万円を銀行Bから調達して、事業を起こすとしよう。この事業がもたらす収入には、次のような不確実性がある。起こりうる状態は「成功」と「失敗」で、「成功」の確率をp (0<p<1)としよう。このとき、「成功」がもたらす収入は、(1+0.1/p)千万円で、「失敗」の場合の収入は0.9千万円である。つまり、成功率pが低いほど、「成功」したときの収入が大きいのである。一方で、銀行Bは、シュー君の能力について十分な情報がなく、pの値を知らない。また、銀行が貸出金を調達するための預金金利は一定の値で、s (100s %)>0としよう。
このゲームは、シュー君が銀行を訪れたときから、次のように展開する。まず、銀行Bは、そもそもこの青年に貸出をするかどうかをきめる。貸出を拒否すれば、銀行の利益は0円、シュー君の利益も0円である。貸出をするならば、貸出金利を提示する。次にシュー君がその金利を受け入れるかどうかを決定する。シュー君が拒否すれば、銀行とシュー君の利益はともに0円である。では、このゲームについて以下の設問を考えよう。

1.1
銀行から融資を受けられたが、シュー君が事業に失敗し、破産宣告を受けた場合に、銀行がシュー君に請求できるのは、失敗時の収入0.9千万円だけであるとする。このとき、貸出金利をr (100r %)として、シュー君と銀行それぞれの期待利益を式で表しなさい。

1.2
p=0.5(50%)としよう。さらに、銀行Bもこの値を知っているとしよう。このとき、このゲームで銀行Bがとる戦略とシュー君がとる戦略を、最後通牒ゲームでのバックワード・インダクションを応用して導出しなさい。また、その過程でシュー君と銀行Bの期待利益を明示しなさい。

1.3
銀行Bから貸出金利の提示があるとして、シュー君が受け入れてもよいと考えている金利の上限の値(この値のことを「留保金利」とよぶことができる)は、pの高さとどのような関係にあるか、述べなさい。

1.4
銀行Bは、事業のリスクについて、次のような予想をもっているとしよう。すなわち、事業の成功率pが0.5である確率を20%、pが0.1である確率を80%と推定している。また、s=0.04としよう。このとき、このゲームでの帰結は、結局、銀行Bが貸出を拒否することになるというものである。この点を、第9章の3.1節における不完備情報のもとでの最後通牒ゲームを応用して、明らかにしなさい。

1.5
1.4と同じような状況で、銀行Bにライバル銀行Cがいて貸出金利で競い合う状況を考えよう。その場合、どのようなことが起こると推測されるか、述べなさい。


2.


第5章の3.3節では、保険料と保険金(保険給付)の組み合わせで保険会社が競い合う保険市場を分析した。ここでは、保険給付1円に対する保険料(保険料率)で競い合うという状況を考えよう(被保険者が複数の会社から保険を購入し、しかも他社からの購入量を把握できないという場合には、こうした保険料率での競争が考えられるのである)。このとき、各保険会社が応募してきた被保険者の事故遭遇率(リスク)を見分けられないならば、練習問題1で考えたような、銀行の貸出市場(信用市場)で起こったのと似た逆選択が、この保険市場でも発生する。その仕組みを論じなさい(必ずしも1のようなモデルをつくって分析する必要はない)。


3.


事業家のミッチは、あるプロジェクトを計画しているが、それには1億円の投資が必要である。その投資による収益をπとすると、πの値は1億5,000万円か、1億2,000万円のいずれかである。ミッチは投資資金を投資家のビッグから調達することにした。しかし、ミッチ自身はあらかじめ収益の値πが1億5,000万円なのか、1億2,000万円なのかを知っているが、ビッグは知らず、それが明らかになるのは事業が実施されてからのことである。ただし、投資家のビッグは、ミッチの収益が何%かの確率で1億5,000万円、その残りの確率で1億2,000万円という事前の判断はもっている。ビッグには1億円をほかの資産に投資することも可能である。その収益率(利子率)は10%であり、こちらに投資すれば1億円は1億1,000万円になって返ってくる。
ミッチとビッグのゲームは次のように展開する。まず、ミッチが次のような提案をする。
「投資してくれれば、見返りとして確定的にD円を支払う。さらに、実際の収益からD円を引いた額の何%かを加算して支払う」
この何%かにあたるところを100α%とすると、ビッグの収入は、D+α(π-D)である。これに対し、ミッチの利益はπ-{D+α(π-D)}=(1-α)(π-D)となる。ここでDにあたるのは負債を発行することにともなう支払い(債券の場合は利子と満期のときの償還額の合計、銀行借入ならば利子を含んだ返済額)を意味し、α(π-D)にあたるのは、株式を発行することにともなう支払い(持ち分を100α%としたときの配当額)である。ただし、D>πとなる場合はミッチの破産であり、その場合ミッチはπ円をビッグに支払えばよい(ビッグの収入はπ、ミッチの利益は0である)。とはいえ、ここではそういう可能性を考えなくてすむように、D≦1億2,000万円と仮定しよう。
ミッチが提案すると、今度はビッグがその提案を受け入れるかどうかをきめる。ここで受け入れなければ、ビッグの収入は1億1,000万円、ミッチの利益は0円となる。このゲームについて、以下の設問に答えなさい。

3.1
このゲームには、次のようなプーリング均衡が存在することを明らかにしなさい。
「収益の大きさπがどのような値をとろうが、ミッチはα=0、D=1億1,000万円を提案し、ビッグがそれを受け入れる」

3.2
このゲームには、次のような分離均衡が存在することを明らかにしなさい。また、この均衡の経済学的な意味を述べなさい。
「ミッチは、収益が1億5,000万円ならば、α=0、D=1億1,000万円を提案し、収益が1億2,000万円ならば、α=11/12、D=0円をそれぞれ提案する。それぞれの場合について、ビッグはミッチの提案を受け入れる」


4.


アイスクリーム屋のタッキーには2つのタイプの可能性がある。1番目のタイプは「高品質」である。「高品質」の場合、アイスクリーム1個をつくる費用は50円で、アイスが大好きという消費者には300円に相当する満足をもたらし、アイスがほどほどに好きという消費者には120円に相当する満足をもたらす。2番目のタイプは「低品質」である。「低品質」の場合、アイスクリーム1個をつくる費用は0円だが、アイスが大好きという消費者にも、アイスがほどほどに好きという消費者にも-50円の満足、つまり50円分の不効用をもたらしてしまう。タッキーは今年の夏(1期目)と来年の夏(2期目)、つまり2期間にわたって商売をするものとしよう。ライバルはいないものとする。店にやってくるかもしれないお客は、1期目も2期目も同じであり、アイスが大好きという消費者が40人、アイスがほどほどに好きという消費者が60人としよう。これらのお客は1期目にはタッキーが「高品質」か、「低品質」かを区別できない(どのお客も「高品質」の確率を10%と予想しているものとしよう。ただし、このことが以下の設問を考える上で利用されることはない)。それは買って消費することで初めてわかる。ただし、1期目に買わなかったお客は、2期目にも買わないものとする。また、タッキーが来年の利益を評価するときに用いる割引因子は1としよう(これは「割り引かない」のと同じである)。さらに、後の設問4.2で述べる「広告支出」以外に、どのタイプについても固定費は存在しないものとする。このような状況で、「高品質」タイプのタッキーは、「低品質」タイプと区別してもらうためにどのような工夫をこらすだろうか。この点を検討するために、以下の設問に答えなさい。

4.1
2期目になってからの問題である。1期目のお客が40人でそれらがすべてアイスが大好きという消費者である(と推測される)場合と、1期目のお客が100人全員だった場合に分けて、「高品質」のタッキーが選択する(2期目の)価格がいくらになるか、さらに、そのときの(2期目の)利益はいくらになるかを、検討しなさい。また、「低品質」の場合についても検討しなさい。

4.2
1期目の問題である。「高品質」のタッキーは、どのお客にもいくらかがわかる「広告支出」の実施を考えている。たとえば「広告支出」をA(円)とすれば、この額がそのまま固定費となるが、お客には「広告にA円使ったな」と伝わるのである。このとき、価格と並んで「広告支出」が「低品質」と区別されるための「高品質」のシグナルとして機能する可能性を検討しなさい。


5.


本章3.2節でプリンシパル=エージェントの問題を考えたときには、1人のプリンシパルと1人のエージェントの関係に焦点を絞った。しかし、現実には1対複数、複数対1、あるいは複数対複数という場合が一般的である。そこで、ここでは1人のプリンシパルと複数のエージェントの関係について考えてみよう。某会社の人事課長は頭を悩ませている。営業課で頑張っているブルとベアからもっと営業努力を引き出すような報酬の工夫を、上から命じられたのである。そこで着目したのが、過去に2人の営業実績のあいだに観察された相関関係である。たしかにブルの成績が良いときにベアの成績が悪い場合もあるし、その逆の場合もある。しかし、どちらかが良いときにはもう一方も良く、逆に悪いときにはどちらも悪いというような傾向が読み取れるのである。さて、人事課長はどのような報酬方式を採用すべきであろうか、議論しなさい(厳密なモデルをつくって分析する必要はない)。


6.


「従業員持ち株制度」(Employee Stock Ownership Plans)といわれるものについて調べなさい。また、この制度が従業員の労働誘因とリスク負担にもたらす効果について検討しなさい。


7.


「預金保険制度」あるいは「預金保険機構」といわれるものについて調べなさい。また、この仕組みと銀行によるモラルハザードの関係について議論しなさい。


8.


図10-8のようなゲームの木で表される「銀行」と「政府」のゲームを考える。「銀行」の選択できる戦略は2つで、aは「収益性はあるが貸倒れリスクの高い貸出」であり、bは「安全な貸出」である。「銀行」がaを選択すると、50%の確率で貸倒れが発生し、不良債権問題が起こる。「政府」が対応をせまられるのはこの場合である。「政府」は、不良債権問題の「処理のための援助」を実施するか、「援助しない」かを選択する。右端には、それぞれの場合の「銀行」と「政府」の利得が書かれている。このゲームについて以下の設問に答えなさい。

8.1
このゲームの木に書かれてある「銀行」と「政府」の利得の数値例には、どのような解釈が可能か、議論しなさい。

8.2
このゲームが1回限りで終わるとした場合に、「銀行」と「政府」のとる戦略はどのようになるか、バックワード・インダクションを使って検討しなさい。

8.3
このゲームが無限回くり返される状況を考えよう。そのとき、以下の主張について、サブゲーム完全均衡の考え方を使って、議論しなさい。
「政府」は不良債権問題に対して断固「援助しない」という方針で望むべきである。そうすることで「政府」は「評判」を形成し、将来における不良債権問題の発生を阻止できるのである。

第10章:Answer



1.


金融市場(信用市場)における逆選択の問題。問題文で明示的に断らなかったが、両者とも危険中立的であることを仮定する。

1.1
シュー君の期待利得= p {(1+0.1/p)-(1+r) }千万円 = (0.1-pr)千万円、銀行の期待利得= { p (1+r)+(1-p)0.9-(1+s)} 千万円。

1.2
銀行の貸出金利がrのとき、シュー君がこれを受け入れるのは、0.1-0.5r≧0の場合である。この式を書き換えると、r≦ 0.2となって、シュー君が銀行の申し出を受け入れるのは、rが0.2(20%)以下の場合である。一方で、銀行の利益は{ 0.5(1+r)+0.5×0.9-(1+s)}千万円であり、rが高いほど大きくなる。したがって、貸出をするとすれば銀行はr=0.2を選択する。このとき、銀行の利益は、上の式のrに0.2を代入して、{ 0.5(1+0.2)+0.5×0.9-(1+s)}=(0.05-s)千万円。したがって、0.05≧sならば、銀行Bは貸出を選択する。そうでないならば、貸出を拒否する。いずれの場合もシュー君の利益は0円となる。

1.3
シュー君が銀行の貸出金利を受け入れるのは、 0.1-pr≧0の場合である。この式を書き換えると、r≦ 0.1/pとなって、0.1/p が留保金利となる。この値はpの値が高いほど低くなる。言い換えると失敗のリスクが高いほど、留保金利は高くなる。

1.4
1.2での答えを利用して、提示された貸出金利とそれを受け入れるタイプのあいだの関係を考慮すると、貸出金利と銀行の期待利益の関係は次のように表される。
r≦0.2ならば、両方のタイプ(p=0.5とp=0.1)が受け入れるので、

{ 0.18 (1+r)+(1-0.18)0.9-1.04 } 千万円

(ここで0.18は、0.5×0.2 + 0.1×0.8 = 0.18 と計算されている)
1≧r >0.2 ならば、リスクの高いタイプ(p=0.1)だけが受け入れるので、

{ 0.1(1+r)+(1-0.1)0.9-1.04} 千万円

ところが、これらの値はいずれも0未満になってしまう(確かめてみよう)。したがって、銀行は貸出を拒絶する(あるいはrの値を1より高くする)のである。これは極端な状況であるが、似たような現象は現実にも発生しており、貸し渋りまたはクレジット・クランチとよばれている。

1.5
シュー君は、貸出金利の低い銀行から融資を受けようとする。両銀行とも貸出をしようとする場合には、2つの銀行のうち低い方の金利を、一方だけが貸出をする場合にはその銀行の金利をrとしよう。すると、 rとそのrを提示した銀行が得る期待利益の関係は、結局、1.4で検討したのと同じように書ける。したがって、どの金利のもとでも期待利益が負になるので、両銀行ともシュー君への貸出を拒否する。



2.


答えは第4章2.3節(本文108ページ)と第15章2.4節(本文420ページ)を参照のこと。単純に各被保険者が1つの保険会社からしか保険を購入しないとすれば、保険会社は、第5章3.3節のように保険料と保険給付額で競争することになる。この場合、逆選択という状況でどんな競争均衡が成立するだろうか。これは、少し難しい問題である。関心のある読者は、巻末にある参考文献[32]の第4章などを参考にして、研究を深めよう。


3.


この問題は、資金調達する企業が株式・負債比率をどのように選択するかに関わり、企業金融(財務)に関心をもつ読者にはぜひ考えてほしい課題である。問題文では明示していないが、両者とも危険中立的と仮定しよう。

3.1
これ以外のαDの組み合わせが提案されたときに、投資家ビッグがミッチの収益を、確率1で1億2千万円であると予想するようになるとしよう。そのとき、 D +α(1億2千万-D) <1億1千万 ならば、投資家は拒否し、ミッチの利益は0円である。そこで、 D +α(1億2千万-D) ≧1億1千万 としよう。投資家は提案を受け入れるので、ミッチの利益は、(1-α)(π-D) となる(πは、1億5千万円か、1億2千万円)。ところが、この値は、π-1億1千万 よりも大きくならず、π=1億5千万円 ならば、必ず小さくなる。したがって、ミッチが別の提案をする誘因は存在しない。

3.2
まず、均衡での提案が投資家に受け入れられることを確認しよう。π=1億5千万円の場合は明らかであるから、π=1億2千万円の場合を考えると、 0 +(11/12)(1億2千万-0) =1億1千万 で、たしかにビッグは受け入れる(受け入れないことで利益が上がるわけではない)。
次に、ミッチが、π=1億5千万円の場合にα=11/12、D=0円 を提案するか、π=1億2千万円の場合に、α=0、D=1億1千万円を提案するという誘因がないことを確認しよう。π=1億5千万円の場合にα=11/12、D=0円 を提案すると、利益は (1-11/12)×1億5千万 で、この額は4千万より小さい。1億2千万円の場合についての検討は読者に任せよう。
最後に、ミッチが、これ以外のαDの組み合わせが提案されたときに、ビッグがミッチの収益を、確率1で1億2千万円であると予想するようになるとしよう。そのとき、各タイプのミッチには、別の提案をする誘因が存在しないことを示すことができる(これは、3.1と同じ方法で示せるので読者に任せよう)。
こうして、分離均衡となることがわかった。この均衡では、資金調達における負債と株式の組み合わせがプロジェクトの収益に対するシグナルとして機能する。つまり、収益性が高いプロジェクトをもっている会社ほど、資金調達における負債の比率を高めることで、収益性の高さをアピールするのである。
このモデルは、資金調達の仕方が戦略的に選ばれるという可能性を説明できる点で、興味深い。同じような論理は、企業会計における情報開示の仕方にも当てはまるだろう(そして、研究も盛んで、会計学の専門雑誌などに多くの論文がある)。情報開示のあり方が企業戦略の一環になりうる。逆に考えると、(一般)投資家は「情報開示」される内容を慎重に(戦略的に)解釈する必要に迫られるのである。


4.


広告の内容などはどうでもいい、広告をしているかどうかが問題なのだ」というお話である。

4.1
1期目のお客がアイスを大好きという消費者40人だけだったと推測できるとき、「高品質」のタッキーによる2期目の価格は300円で、(2期目の)利益は40×(300-50)=10,000円。1期目のお客が100人全員だった場合、タッキーは、価格を300円とするか、120円とするかを選択する。300円の場合の利益は10,000円、120円の場合の利益は100×(120-50)=7,000円であるから、タッキーは価格を300円にする。「低品質」のタッキーの場合は、どんな(0以上の)価格を付けても顧客は確保できないので、利益は0円となる。

4.2
1期目にタッキーが価格をP、「広告支出」をAとしたとき、お客が「高品質」と判断してくれるとしよう。「高品質」のタッキーが得る1期目の利益は、P≦120ならば、100×(P-50)-A、 120 < P≦300ならば、40×(P-50)-A、である。一方で、「低品質」のタッキーが得る1期目の利益は、P≦120ならば、100P-A、 120 < P≦300ならば、40P-Aである。次に、「低品質」と判断されてしまう場合の1期目の利益は、「高品質」タイプであろうが、「低品質」タイプであろうが、0(円)である(「広告支出」を0とする)。したがって、価格Pと「広告支出」Aの提示が「低品質」タイプにとって有利にならない条件は、 P≦120ならば、100P-A≦0、 120 < P≦300ならば、40P-A≦0である。これにより、「低品質」と区別されるために最低限出費しなければならない「広告支出」は、 P≦120ならばA=100P、120 < P≦300ならば、A=40Pとなる。
そこで、「高品質」のタッキーが得る1期目、2期目の利益の現在価値の和をもとめよう。4.1での答えを利用すると、 P≦120ならば、A=100Pとして、

100(P-50)-100P + 10,000 = 5,000

となり、120 < P≦300ならば、A=40Pとして、

40(P-50)-40P + 10,000 = 8,000

となる。したがって、120 < P≦300となるような価格Pを選び、それに応じて「広告支出」A=40Pとすることが最適な戦略となる。たとえば、価格を150円とすれば、「広告支出」は6,000円となる。これによって「広告支出」が価格と並んで「高品質」のシグナルとして機能することがわかる。なお、ここでの結果が、ベイズ的完全ナッシュ均衡になっていることの確認は読者に任せよう。



5.


ここでは、営業マンの1人であるブルに対する報酬を考えてみよう。本文で考えたような報酬制度では、報酬額を本人の営業成績に依存させていた。しかし、今度の場合に、情報として同僚であるベアの成績も使うことができる。つまり、報酬額を、本人の成績だけでなく、同僚の成績にも依存させるのである。問題にあるような状況で、2人の業績に相関関係があるとすれば、ブルの業績がベアに比べて悪いのは、ブルが営業努力を怠っているからかもしれない。したがって、ブルの業績がベアに比べて悪いときには、ブルへの報酬を低めに設定する。場合によってはその額を2人とも業績が悪かった場合の報酬額よりも低くすべきだろう。逆であれば報酬を高くする。場合によってはその額は2人とも業績が良かったときよりも高くすべきだろう。
 しかしながら、デリケートな問題があることに注意しなければならない。報酬制度が与えられると、同僚の間にゲーム論的な状況が生まれる。たとえば、お互いに同僚が営業努力をするだろうと推測し、たしかに2人とも営業努力をすることが(ナッシュ)均衡になるためには、2人とも業績がよかった場合の報酬と自分の業績だけが悪くて同僚の成績が良かった場合の報酬との差を、自分の業績だけが良くて同僚の成績が悪かった場合の報酬と2人とも業績が悪かった場合の報酬の差よりも相対的に大きくしておくべきであろう。同僚が営業努力をしているとすれば、同僚よりも業績が悪くなったときのペナルティを相対的に高くすることが望ましいのである。そうすることで、営業努力への誘因が生まれる。しかし、同僚が営業努力を怠ると予想すれば、自分も怠ったほうがよいということになりかねない。両方の業績が悪いときの報酬が自分だけ悪いときの報酬よりも高ければ、2人とも営業努力を怠るということがありうる。したがって、同僚が営業努力を怠る場合でも、営業努力を怠らないようにさせる条件を新たに加えなければならない。


6.


ここでは、この大きな問題を考えるための材料として、巻末に挙げた参考文献[14]の第12章12.5節を読むことをお奨めしよう。


7.


これもなかなか大きな課題であり、入門的な本として、堀内昭義『金融システムの未来』(岩波新書)などを出発点にして取り組んでいただければと考えている。


8.


8.1
7で掲げた堀内昭義『金融システムの未来』(岩波新書)などを参考に考える。

8.2
「銀行」はaを選択し、「政府」は「処理のための援助」を選択する。

8.3
「銀行」も「政府」も将来の利得を大きく割り引くことはないとしよう。そのとき、次のようなサブゲームを考えてみよう。ひとつは、過去に銀行がaを選んで不良債権問題が発生したとき、政府が「処理のための援助」を選んだことが1度でもあるという場合で、このサブゲームを<援助あり>とよぼう。もうひとつはそれ以外で<援助なし>である。このとき、<援助あり>の1回目で「銀行」はaを選択し、その結果、不良債権問題が発生した場合に「政府」は「処理のための援助」を選択するとしよう。また、<援助なし>の1回目で銀行はbを選択し、もし(間違って)aを選択してその結果不良債権問題が発生した場合に「政府」は「援助しない」を選択するとしよう。これらはサブゲーム完全均衡を構成することになり、「銀行」は毎回bを選択することになる。したがって、この均衡が実現される可能性があるという点で、設問の主張はそれなりの論拠をもっている。
第11章のQuestionとAnswer

第11章:Question



1
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通貨は取引のための交換媒体である。これから考えるのは、交換媒体としてどの通貨が社会的に(国際的に)選択されるようになるか、という問題である。いまYとDという2つの通貨がある。表11-6は、財やサービスの取引がもたらす(自分の)利益が、自分が交換媒体としてどちらの通貨を使用し、取引相手がどちらの通貨を使用しているかに依存することを表している。たとえば、自分がYを使用し、取引相手もYならば、利益は1であるが、取引相手がDを交換媒体として使用しているならば、通貨自体の交換などに費用がかかるために、利益は0になる。財やサービスなどの取引過程を次のように想定しよう。この経済にはJ国とA国があるとし、世界人口を1としたとき、J国人の存在比率は100n%、A国人の存在比率は100(1-n)%である。このとき、J国人が同じJ国人の取引相手に出会う確率を100n%と考えよう。同様に、A国人が同じA国人の取引相手に出会う確率を100(1-n)%と考える。しかし、J国人がA国人の取引相手に出会う確率は100(1-n)%とはならず、それよりも低い100β(1-n)%になるものとする(0<β<1)。同様に、A国人がJ国人の取引相手に出会う確率は100n%とはならず、それよりも低い100×βn%になるものとする。取引相手が見つかると、財・サービスなどの取引が起こる。それがもたらす利益は表に記載されているとおりである。しかし、取引相手が見つからないこともある(たとえばJ国人は100(1-β)(1-n)%の確率で取引相手に出会わない)。その場合の利益を0としよう。このモデルについて、以下の設問に答えなさい。

1.1
βが何を表すかを解釈しなさい。

1.2
J国人のなかで交換媒体をYにしている人の比率を100x%(したがって100(1-x)%がD)、A国人のなかで交換媒体をYにしている人の比率を100z%(したがって100(1-z)%がD)としよう。このとき、J国人にとってYを選ぶことの期待利益とDを選ぶことの期待利益をそれぞれ式で表しなさい。A国人についても同じことを試みなさい。

1.3
現在、J国人だけがYを使用し、A国人だけがDを使用しているとしよう。この状態が今後もそのまま維持されるとすれば、それはどのような条件のもとでか。また、維持されないで、J国人もDを使い始め、やがては世界全体でDだけが使用されるようになるとすれば、それはどのような条件のもとでか。それぞれについて、適切なフェーズ・ダイアグラムを描いて、検討しなさい。



2.


従業員が10人という小さな職場での話である。この職場では、2人がペアを組んで仕事をすることが多い。各従業員の利得は、自分が「まじめ」に働くか、「さぼる」かと、組んだ相手が「まじめ」に働くか、「さぼる」かに依存して、表11-7のような利得表で表される。このとき、以下の設問に答えなさい。

2.1
この利得表で表されるゲームには、純粋戦略でのナッシュ均衡が2つと混合戦略でのナッシュ均衡が1つある。その3つをすべて書き出しなさい。

2.2
どの従業員も純粋戦略をとるとしよう。つまり、「まじめ」か「さぼる」を選ぶとしよう。このとき、2.1で答えた純粋戦略での均衡2つのうち、どちらの均衡が選抜されやすいかを、確率的な進化ゲームの考え方で論じなさい。また、選抜された均衡が「リスク配」の条件を満たしていることを確認しなさい。

第11章:Answer



1.


1.1
対外的な開放度を示す係数で、両国の経済が閉鎖的であるほど、この値は小さくなると解釈できる。

1.2
J国人がYを選ぶ期待利益 はxn +(1-n)、Dを選ぶ期待利益は(1-x)n +(1-z)β (1-n)。A国人がYを選ぶ期待利益 は xβn +z (1-n)、Dを選ぶ期待利益 は(1-x)βn + (1-z) (1-n)。

1.3
J国では、xn +(1-n)>(1-x)n + (1-z)β (1-n)ならば、x=1でないかぎり、xは増加すると考えられる。逆に、 xn +(1-n)<(1-x)n + (1-z)β(1-n)ならば、x =0でないかぎり、xは減少すると考えられる。一方で、A国ではxβn +z (1-n)> (1-x)βn+(1-z) (1-n)ならば、 z =1でないかぎり、z は増加すると考えられる。逆に、 xβn + z(1-n)<(1-x)βn + (1-z) (1-n)ならば、 z=0でないかぎり、z は減少すると考えられる。そこで、J国については

xn + (1-n) = (1-x)n + (1-z)β (1-n)  (J)

を満たすxzの組み合わせを考え、A国については

xβn + z (1-n) = (1-x)βn + (1-z) (1-n)  (A)

を満たすx z の組み合わせを考え、図示してみよう。(J)式と(A)式は、それぞれ次のように変形できる。

x = -[β(1-n)/n]z +1/2+β(1-n)/2n

x = -[(1-n)/βn]z +1/2+(1-n)/2βn

図A11-1(a)(b)(c)には、xを縦軸、zを横軸にして、これらの直線が図示されている。ここで重要なのは、2つの直線の縦軸(あるいは横軸)における切片の値で、図(a)には、1/2 +β (1-n) /2n≧1、あるいは、n /(1-n)≦β の場合が描かれている。対外的な開放度に比べてJ国の相対的な規模が小さいと成り立つ状況である。図(b)には、1/2+β (1-n) /2n<1<1/2 + (1-n)/2βn、あるいは、β<n /(1-n)<1/βの場合が描かれている。J国の相対的な規模がいわば「中位にある」ような場合である。図(c)には、1/2 + (1-n)/2βn≦1、あるいは、1/βn /(1-n)の場合が描かれている。J国の相対的な規模が大きい場合である。
図(a)のような状況で、x =1、z =0という状態は維持できず、x =0、z =0という状態に向かって推移し、最終的にどの国も交換媒体としてDを使用するようになる。 x =0、z =0という状態が達成されると、この状態は安定的に維持される。図(b)のような状況では、x =1、z =0という状態が安定的に維持される。この状態から少しだけ乖離することがあっても、もとの状態に戻る力が働くことになる。図(c)のような状況で、 x =1、z =0という状態は維持できず、x =1、z =1という状態に向かって推移し、どの国も交換媒体としてYを使用するようになる。したがって、J国人だけがYを使用し、A国人だけがDを使用している状態が今後もそのまま維持されるとすれば、図(b)のような場合で、J国人もDを使い始め、やがては世界全体でDだけが使用されるようになるとすれば、図(a)のような場合である。









2.


2.1
(イ)どちらも「まじめ」を選んでいる状態 、(ロ)どちらも「さぼる」を選んでいる状態、(ハ) どちらも、確率3/5で「まじめ」、確率2/5で「さぼる」を選んでいる状態。

2.2
2.1における(ロ)が選抜されやすい。第4節の考え方を応用すると、(ロ)が崩れて(イ)に行き着く淘汰が働きだすために必要な突然変異の数は、(イ)が崩れて(ロ)に行き着く淘汰が働きだすために必要な突然変異の数よりも多いことになろう。したがって、頻繁に観察されるのは(ロ)の方である。また、相手がそれぞれ1 /2の確率で「まじめ」と「さぼる」を選んでいるとき、「さぼる」の期待利得(1 /2)×4 + (1 /2)×6=5は、「まじめ」の期待利得 (1 /2)×8 + (1 /2)×0=4 よりも多く、「さぼる」は「リスク支配」を満たしている。
第12章のQuestionとAnswer

第12章:Question



1
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あるネットワーク型サービスの市場を考える。この市場の潜在的な顧客数をM人としよう。ここで、A社の独占が成立しているところへ、新たなネットワーク型企業Bが参入するかどうかをきめようとしている状況を考える。そこで、新規企業Bがf 円の投資(埋没費用とする)によってネットワークを構築し、参入してきたとする。顧客はそもそもネットワークに加入するかどうかを選び、もし加入するならばどのネットワークにするかを選択する。簡単化のために、加入した場合のサービスの利用量は1単位のみと仮定しよう。ネットワーク・サービスが顧客1人にもたらす効用は、加入者の数に依存する。そこで、A社の加入者数をx人、B社の加入者数をy人とすると、A社のもたらす顧客1人当たりの効用は2x円に相当し、B社のもたらす顧客1人当たりの効用は8y円に相当すると仮定しよう。さらに、どの顧客も、自分1人が加入するか、しないかでこれらの便益が変化することはないと考えている(これはプライス・テーカーの仮定と同じである)。したがって、同じ加入者数であれば、B社のサービスのほうが質が高いのである。また、サービスを供給するための限界費用は両社とも0円とする。そこで、既存企業のA社には新たなネットワークを開設する必要がない(f 円はすでに投資済みである)ことに留意して、以下の設問に答えなさい。

1.1
A社の独占が成立しており、A社は価格をp 円にしているとしよう。ただし、ここでいう価格とは加入料のことである。このとき、Mp/2ならば、M人全員がA社のネットワークに加入するか、あるいは誰も加入しないかのいずれかである。第11章3.2節の「調整ゲーム」の考え方を応用して、その理由を検討しなさい。また、A社がどのように価格を設定することになるかについて、検討しなさい。

1.2
B社が参入してきたとする。A社の価格はp 円、B社の価格はq 円である。このとき、Mp/2かつMq/8としよう。すると、M人全員がA社に加入するか、M人全員がB社に加入するか、あるいはどの会社にも誰も加入しないかのいずれかである。第11章の「調整ゲーム」の考え方を応用して、その理由を検討しなさい。また、両社の付ける価格がどうなるかについて検討しなさい。

1.3
B社が参入するのはどのような場合か、検討しなさい。また、既存の独占企業Aがすでに加入者を確保している状況で、B社の新規参入が困難になる理由を論じなさい。


2.


日本の牛肉市場は図示すると、図12-5のようになるだろう。この図を参考にして以下の設問に答えなさい。

2.1
自給自足の均衡はどこで実現するか。

2.2
小国の仮定とは何か、図に即して説明せよ。

2.3
自由貿易の均衡はどこで実現するか。

2.4
設問2.1と2.3の均衡の総余剰の差異を説明せよ。

2.5
輸入関税下の均衡はどこで実現するか。

2.6
設問2.3と2.5の均衡の総余剰の差異を説明せよ。

2.7
上記の説明から輸入関税の経済的な意味を考察せよ。

第12章:Answer



1.


1.1
顧客は加入するかどうかを選択し、その結果、A社への需要がきまってくる。加入者数がxのときに、加入のもたらす便益は2xである。したがって、加入の費用であるpよりも2x が大きければ、加入者が増加する。しかし、xが増加すれば、ますます加入の便益は高まるので、最終的にはM人が加入するようになる。 Mp/2はそうしたことが起こるための条件である。一方で、たとえ Mp/2でも、2x<p であれば、加入者の減少が起き、結局は0になる。最後に2x=p という状態も均衡であるが、xが少し増えるかあるいは減ると、さらに増えるかあるいは減るということが起きて不安定である。
以上のことを踏まえて、A社の価格について考える。Mp /2 のとき、加入者がM人になるとA社が予想すれば、価格を2M 円にするだろう。しかし、加入者を0人と予想すれば、どんな価格でもよいことになる(加入者は0なので、どんな場合も利益は0である)。

1.2
前半は1.1での考え方を使って説明できるはずである。すると、後半の価格設定は、次のようになる。 Mp/2かつ Mq/8のとき、全員がA社に加入すると予想されるならば、A社は価格を2M 円とし、B社は任意の価格を選ぶ。全員がB社に加入すると予想されるならば、B社は価格を8M 円とし、A社は任意の価格を選ぶ(どんな価格でもよいということ)。誰もがどの会社にも加入しないと予想される場合は、A社、B社とも価格は任意となる。

1.3
B社が参入するのは、M人全員が自社に加入すると予想される場合である。そのときの粗利潤は8M×M = 8M2円で、参入で見込まれる利潤は 8M2-f 円となる。これが0以上であれば、参入し、そうでなければ参入しない。 M人全員がA社に加入すると予想される場合には参入しない。既存の企業がすでにM人を引き付けているとすれば、自分が参入した後にも顧客がAに加入し続けると予想される。すでにAに加入している顧客にとって、新たに登場したネットワークへの加入は、どんなにq円が安くても不利益をもたらすか、よくても(つまりq =0の場合)Aへの加入と同じ利益(つまり0円)である。したがって、B社には新規参入の誘因はないと考えられる。


2.


日本の牛肉市場は、現行の輸入関税制の前は輸入割当制であり、どちらもこの問題における図で説明される。後者は畜産振興事業団が輸入数量を割り当て、国際価格と国内価格の差額は事業団の収益になり、畜産振興に当てられることになっていた。輸入割当制が輸入関税制に移行したのは、ウルグアイ・ラウンドによってすべての農業保護政策が、輸入関税制に移行することになったからである。経済学の教科書では、両者は同じ効果であるから輸入割当と関税の「同値命題」とよんでいる。しかし実際には両者の間には、かなりの相違がある。輸入割当制の場合には、事業団が特定の商社に割り当てるので、割高な手数料を目指す商社と割り当てる事業団の間に、スキャンダルが絶えなかった。関税制では一定の関税さえ払えば、誰でも取引できるので透明性ははるかに高くなった。また事業団の収益が、どれだけ畜産振興に寄与したかがはっきりしないのに対し、関税は一般税の税収として広く国民一般に使われる点でも違いがある。

2.1
自給自足ならば輸入はないのだから、国内供給曲線と需要曲線の交差するEaで、自給自足の均衡は成立する。

2.2
小国の仮定とは、本文のコスト・プール方式の説明にもあるように、牛肉世界貿易に占める日本の市場は十分に小さく、日本が輸入数量を若干増やした程度では、世界の牛肉価格にはそれほどの影響を与えないことを意味する。問題文の図では、p*を切片とする半直線が横軸に平行になることを意味する。

2.3
自由貿易であることは、日本の牛肉市場を完全にオープンにするのだから、もし国産と外国産の牛肉に品質の相違がないならば、両者は同一の財で一物一価が成立する。したがって国内価格は国際価格p*まで低下する。このとき均衡はEf で、国内供給は線分p*Sp*に減少し、海外からの輸入は線分Sp*Efとなる。

2.4
自給自足の均衡Eaと自由貿易の均衡Efの総余剰は、それぞれ次のようになる。

自給自足の均衡の余剰=消費者余剰(ΔαEapa)+生産者余剰(ΔpaEaβ)

自由貿易の均衡の余剰=消費者余剰(ΔαEf p*)+生産者余剰(Δp*Sp*β)

したがって両者の差異はΔEaEfSp*だけ自由貿易の余剰が自給自足のそれより大きい。
つまり自由貿易をすれば国内価格は国際価格まで低下するので、生産者余剰は四角形paEaSp*p*だけ小さくなるが、消費者余剰は四角形paEaEfp*だけ大きくなり、それは前者の減少分を上記の三角形だけ上回るのである。

2.5
輸入関税をtだけ課したとすれば、国内価格はp*+tの水準となる。したがってこの価格の下ではEtが均衡となり、国内供給はp*+tγを結ぶ線分で、輸入は線分γEt となる。

2.6
輸入関税を課した均衡と自由貿易均衡における総余剰の差は、次のようになる。
輸入関税の均衡の余剰=消費者余剰(△αEt (p*+t ))+生産者余剰((p*+t )γβ)+関税収入(四角形γEδ)
関税税収は牛肉について1単位あたりtだけの関税を課し、線分γEtの長さだけの数量輸入するので、税収の合計はこのようになる。自由貿易の均衡の余剰は設問2.4で説明しているので、両者の差異は△γδSp*△EtEとなる。前者は国内価格が高いために、国際価格と比較して高い費用で過剰生産するために発生する厚生損失であり、後者は国内価格が高いので消費者が過小消費となる厚生損失である。

2.7
輸入関税の導入は、国内価格を国際価格より高く設定することにより、国内産業を保護するものである。関税収入は得られるものの、それは消費者余剰の損失を補填することはできず、前の設問のような厚生損失をもたらす。

第13章のQuestionとAnswer

第13章:Question



1
.


1.1節のように、コースの定理が成り立つ状況を考える。ただし、エコ社には、処理事業を始める前に、処理技術への投資が可能であるとしよう。この投資によって住民の限界外部費用曲線が図13-12に示されるように下にシフトするとしよう。このとき、以下の設問に答えなさい。


1.1
エコ社が投資をしようがしまいが、エコ社側に権利があり、かつ交渉の「提案権」もあるとしよう。つまり、住民はエコ社の提案を受け入れるか、拒否するかのみをきめ、反対提案はしないとする。このとき、エコ社には処理技術への投資誘因は存在しない。その理由を論じなさい。

1.2
エコ社が投資をしようがしまいが、住民側に権利があるとしよう。このとき、エコ社に処理技術への投資誘因が生まれる余地があると考えられる。その理由を検討しなさい。



2.


2.1節のように、外部性の問題をガソリンの供給に対する税金または補助金政策で解決するとしよう。本文ではどちらも同じ成果を上げることができると結論づけたが、再考すべき違いはないだろうか。そこで、以下の設問に答えなさい。

2.1
補助金の場合と税金の場合とでは、生産者に対する分配面で大きく違ってくる。どのように違うのかを検討しなさい。

2.2
上の2.1で検討した分配面での違いが原因となって、短期的には同じ社会的厚生をもたらしていた補助金と税金が、長期的にみると、異なる効果を社会的厚生に及ぼすようになり、課税と比較して補助金政策は劣っていることが判明する。それはなぜか。理由を考えなさい。


3.


日本でなぜ直接規制的な政策が優先的に実施されてきたかを、第12章第3節で展開した考え方を応用して論じなさい。


4.


1997年に京都で開催された「気候変動に関する国際連合枠組み条約第3回締約国会議」(「京都会議」)で、1992年の「気候変動枠組み条約」の具現化に向けた「京都議定書」が成立した。議定書の内容を調べ、効率性と国際的な公平性の観点から読者なりの評価を与えなさい。

第13章:Answer



1.


1.1
設問のような条件では、投資後のエコ社の利潤はAE′G′KOで、投資前のAEGKOよりも低下してしまう。したがって投資誘因はない。投資によって交渉から生まれる利益がEGG′E′だけ減ってしまうことが原因である。

1.2
この場合は、1.1の場合と逆に、投資によって交渉から生まれる利益がOEE′だけ増大する。したがって、交渉の結果、この増分からエコ社に配分される利益があり、その額が投資額を越えるならば、エコ社には投資誘因が生まれるのである。


2.


2.1
本文346ページの図13-2で考えてみよう。補助金の場合も社会的余剰は本文で考えた課税の場合と同じでAE′Bであるが、その内訳は課税の場合とかなり違う。



となり、課税の場合と比較すると、生産者の受け取る利益は、課税のときの税収分p 0E′Gp1と補助金のt ( X *-X 0) を足した分だけ多くなる。

2.2
長期をとると、つまり長い目で市場の動きをみると、新たな企業が市場に参入するか、あるいは今まで操業していた企業が市場からの退出するということが起こるだろう。補助金政策によって高い利益を得られることがわかると、新たな企業が参入してくるにちがいない。その結果、長期的には価格は下落する。そのために需要が増え、市場全体の生産・消費量を最適な水準に抑制することが困難になる。一方で課税にかんしては、このような副作用は起こらない。したがって、長期的にみると課税と補助金は同じではない。



3.


本文356ページの図13-5を借用して、企業にとっての費用負担を、規制の場合と課税の場合で比較する。 限界費用曲線をMCとしよう。課税の場合、削減の費用FGy*O に加えて、税金として払うGHy 0y*が企業の負担となる。これに対して規制の場合、企業の負担は削減の費用FGy*O にとどまる。企業(生産者)側にとって、過重な負担となる課税政策よりも規制のほうが明らかに有利である。ただし、同じy*の達成には、削減1単位につきt 円という補助金政策もありうる。この場合には、tGFの利益が生まれるので、企業側にはもっとも有利な政策となる(なぜか、理由を考えてみよう)。「政府の失敗」の議論によれば、政策的な変更が個々の生産者の利害に及ぼす影響が大きいために、圧力団体が形成されやすいのは生産者の側である。こうした圧力団体による組織的な反対があれば、過重な負担を要求する課税の実現は、政治的に困難となる。一方で特定の業界や企業に対する「あからさまな」補助金政策が国民的な合意を得ることも困難(補助金の財源はあくまで国民からの税金(血税)で賄われる)である。こうしたことから、直接規制が、あるいは削減努力に対する(「あからさまではない」)低利融資や租税特別措置(つまり税金の負担を軽くしてあげること)などと組み合わせた直接規制が、政策として実現しやすくなる。このとき、設定される総排出量や個々の企業への割り当ては、政治的に受け入れやすいものにするために、社会的にみて過少なものとなるかもしれない。こうして政治過程で選択される政策は、社会的厚生の最大化に失敗するのである。


4.


炭素税の導入は合意を得られなかったが、「京都議定書」で掲げられている政策はすぐれて経済的手段である。「排出量取引」は、「附属書Ⅱ締約国」といわれる国々(いわゆる先進締約国)のあいだで排出削減の割当量を取引できる制度で、国際的な排出権市場の創設を意味する。「共同実施」とは、ある「附属書Ⅱ締約国」が他の「附属書Ⅱ締約国」に排出削減のための投資プロジェクトを移転するか、あるいは他の「附属書Ⅱ締約国」から獲得できることである。このような仕組みは、一定の温暖化防止を実施する上でその全体での費用を最小化する役割を担う。さらに、「クリーン開発メカニズム」とは、「附属書Ⅱ締約国」(先進国)が「非附属書Ⅱ締約国」(発展途上国)に排出削減の投資を実施した場合、それによってもたらされる削減量を、その「附属書Ⅱ締約国」の削減量として承認する制度である。これは効率性を高める側面と、国際的な所得分配の公平を確保し、発展途上国の持続可能な開発を促進する側面をもっている。
とはいえ、これらの諸政策のもとでも「市場の失敗」が完全に駆逐されることはありえないだろう。情報の非対称性の問題や、各国政府やNGO、さらには国際市場で活動する企業が戦略的に(ゲーム論的に)行動することで発生する問題にかんする詳細な検討は、本書の延長にあるミクロ経済学の格好の研究テーマとなる。
第14章のQuestionとAnswer

第14章:Question



1
.


本章とは別に、奨学金は成績の悪い人から優先的に与えるべきであるという考え方もあり得る。それはどのような理由からであるか。その理由を考察せよ。


2.


初等教育におけるバウチャー制度の長所と短所について、それぞれの要点を整理して対比せよ。


3.


オーストラリアの学位税は、どのような意味で優れた制度といえるだろうか。またそれを日本で実施したら、どのような問題が生じるか考察せよ。


4.


昔から「教師は聖職である」といわれてきた。この言葉は、本章ではどのように解釈されるだろうか。考えてみよう。

第14章:Answer



1.


本文では奨学金を育英制度の一環として捉え、また教育の外部性を重視して、効率性の観点から大学や大学院では成績を重視すべきであると考えた。これに対して公平性を極端に重視すれば、成績優秀な学生はそのような奨学金なしでも、アルバイトをしながら就学可能であり、したがってむしろ成績の悪い人から順に与えるべきである、ということになる。成績優秀ということは、ここでは学習能力が高く、少ない労力で一定の学習成果を達成できることを意味している。


2.


バウチャー制度を初等教育に導入するのは、初等教育に競争原理を導入して、その質を改善しようとするもので、そのような長所は本文でもふれたように確かに存在しよう。しかし短所も考えられよう。それは市場の失敗ともいうべきもので、教育の質をどのような尺度で測るか、あるいは教育の質についての情報が、正確に外部に伝達できるかである。例えば単純に上級学校への進学率だけが教育の質を測る物差しになりかねず、進学率を競うことだけで競争することになりかねない。


3.


学位税は学位取得者(大卒の学士も含む)に定率税を課すものである。一般に所得水準の高くなると予想される大卒者に大学教育の費用負担をさせ、高卒以下の人には費用負担させない制度であるため、公平性の観点からは好ましい。また所得に比例する税であるから、同じ大卒者でも所得の高い人が低い人よりも余計に負担することになり、負担の再配分という役割も持っている。オーストラリアでは大学に行くのはまだ少数で、大卒者は依然としてエリートであるため、このような税が可能なのであろう。反対に日本では大学進学率が高く、大卒者といっても必ずしもエリートばかりではなく、同じ大卒者でも階層的に多様化し、大卒者としての帰属感も乏しいため、日本にこの制度を導入するのは、やや抵抗感が強いだろう。


4.


教師が聖職であるという認識は、戦後の日教組(日本教職員組合)が否定してきたものであるが、「教師や医師などは聖職であるべき」という考え方を経済学的にとらえると、そうした職業が供給するサービスがprofessional goods(専門財)だからである、ということになろう。すなわち教師と生徒の間には、情報の非対称性という壁が存在する。これは医療において医師が患者に対して優位な立場にあるのと同様で、教師は生徒に対してやはり優位な立場にあると考えられる。第10章4.3節でもふれてあるが、こうした市場では低品質なサービスの供給者を駆逐する市場の規律は働きにくい。ゆえに「教師は生徒の立場に立って、必要な教育を施さなければならない」といった、通常の労働者に要求されるものとは異なる特別の倫理感が要求されるようになる、と解釈できる。
第15章のQuestionとAnswer

第15章:Question



1
.


医療サービスを市場的に提供するときの、長所と短所をそれぞれ簡潔に要約せよ。


2.


医療保険はなぜ必要なのか、その理由を説明せよ。次に医療保険が設定されると、どのような問題が発生するのか。どちらについても経済厚生の観点から、考察せよ。


3.


保険者機能とは何か、簡潔に要約せよ。また、国民皆保険を実施している日本の医療制度では、保険者機能はどのように状況にあると思われるか、簡単に論じなさい。

第15章:Answer



1.


医療サービスを市場的に提供するときの長所と短所は、以下のように整理されよう。
長所:医療サービスは一般に社会保険やNHSによって提供されることが多く、市場的な資源配分は先進国では米国などに限定される。市場的に供給することによって効率性は高くなるため、米国の医療水準は世界最高と言われている。また社会保険やNHSなどのように、政府が医療サービス市場に介入して規制などを行うと、政府の裁量の範囲が拡大し、利益団体が跋扈する可能性が出てくるが、市場的な資源配分ならばそのような問題は生じない。
短所:医療サービスを市場的に提供すると公平性に問題が生じる。たとえば米国では15%の人々が無保険の状態にあり、医療へのアクセスを断たれている。さらに医療サービスには情報の非対称性や外部性および需要の不確実性などといった特徴があるが、これらはいずれもそれだけで市場の失敗を招くものである。情報の非対称性からは医師誘発需要などが、外部性からは医療の過小供給が、需要の不確実性からは保険の導入によるモラルハザードや逆選択が発生する。


2.


前問1でも記述したように、医療保険は需要の不確実性に対応するため、つまり予期しない多額の出費に備えるために導入される。もし人々が危険回避的であるとすれば、不確実性の存在によって、たとえ金銭的な期待値が同じでも不確実な事象の期待効用は確実な事象のそれよりも低くなる(第5章第3節を参照のこと)。つまり不確実性の存在は、確実な状態と比較して、厚生損失を発生させる。医療保険によってこのような事態が回避される。
一方で、こうした医療保険が設定されると、発病して受診する際に自己負担を求められる場合でも、それは医療サービスの限界費用よりは低くなるので、医療サービスは過剰に消費され、厚生損失が発生する。


3.


保険者機能とは、保険加入者の健康管理や、医療機関と診療内容や報酬を交渉し、それを通じて医療機関を選定するなどの機能である。日本は社会保険制度を導入したのであるが、保険者機能をほとんど封じ込めてきた。理由は次のように説明できる。厚生省にとっては各保険者が裁量的に診療報酬を交渉し、医療機関の選定などを行えば、その中央集権的な権限の低下をもたらすことになる。また日本医師会にとっても、そのような保険者機能を備えた保険者を相手にするよりも、医療市場への全面的な介入権を有する厚生省を相手にするほうがはるかに与し易いし政治的な圧力もかけやすく、実効性もある、と考えられる。(こうした政治経済学的なアプローチは、第12章第3節で登場している。)

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