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現代世界経済をとらえるVer.5
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現代世界経済をとらえるVer.5

石田 修編/板木 雅彦編/櫻井 公人編/中本 悟編
ISBN:9784492443668
旧ISBN:4492443665
サイズ:A5判 並製 272頁 C3033
発行日:2010年04月16日
定価
2,160円(税込)
信頼のロングセラーテキストの最新改訂版。世界貿易、国際金融、各国経済論などの伝統的な項目に加え、グローバリゼーション、環境、資源・食料、人の移動などホットなテーマまで扱う。

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商品詳細

目次

第1章 グローバリゼーションをどうとらえるか
第2章 日本・中国・アジア
第3章 アメリカ経済
第4章 ヨーロッパ経済
第5章 国際貿易の構造と基礎理論
第6章 多国籍企業と直接投資
第7章 金融グローバリゼーション
第8章 国際収支と国際投資ポジション
第9章 グローバリゼーションとWTO
第10章 国際通貨体制
第11章 低開発と貧困削減
第12章 一次産品と資源・食料問題
第13章 国際環境政策
第14章 人の移動とグローバリゼーション

 
著者プロフィール

石田 修  編者
  いしだ おさむ

1957年 大分県生まれ.
九州大学経済学研究院准教授.
貿易投資分析,国際経済論専攻.

板木雅彦  編者
  いたき まさひこ

1957年 大阪府生まれ.
立命館大学国際関係学部教授.
国際経済学,経済学方法論専攻.

櫻井公人  編者
  さくらい きみひと

1957年,静岡県生まれ.
立教大学経済学部経済政策学科教授.
国際政治経済学,経済政策論専攻.

中本 悟  編者
  なかもと さとる

1955年 兵庫県生まれ.
大阪市立大学大学院創造都市研究科教授.
現代アメリカ経済研究、国際経済論専攻.

著者・編集者コメント

富を生み、豊かさを広げていくはずだった
グローバリゼーションの光と影を学ぶ。


世界貿易、国際投資、国際金融と国際収支、国際通貨体制、貧困問題、各国経済論といった世界経済で学ぶ伝統的項目に加え、グローバリゼーションのとらえ方、環境問題、資源・食料問題、人の移動問題などホットなテーマが付け加えられた信頼のロングセラーテキストの最新改訂第5版。

金融の肥大化とその破綻、拡がる格差拡大、新興国経済への期待……。富を生み、豊かさを広げていくはずだったグローバリゼーションの光と影を学ぶ。

教科書の森(ダウンロード)

はしがき  ―本書のねらいと構成―

 グローバリゼーションが問われています。富を生み,豊かさを広げていくはずだったグローバリゼーションは,金融の肥大化とその破綻,広がる貧困と格差拡大などによって,その光と影とを交錯させています。本書は,グローバリゼーションを理解するという大きなねらいのもとにつくられました。目次をご覧いただければわかるように,まず貿易,投資,金融,開発といった,世界経済論として学ぶべき伝統的で基本的な内容がふまえられています。加えて,それがグローバリゼーションを理解するために必要な理論,歴史的な背景,喫緊のグローバル・イシューについて学ぶための事項を盛り込んだ配列でもあることに気づいていただけると思います。

 本書は,大学1,2年で学ぶ世界経済論,国際経済学,外国地域経済論,各種の国際政策,国際関係といった科目やゼミなどの教科書として,専門科目の基礎を提供するレベルに設定されています。本書を参考に学ぶことで,どのような観点から,どのように調査し,そしてどのように考えていったらよいのか,基本的な姿勢を身につけてほしいというのが,実は一番のねらいになっています。そのために,必要な基礎知識は何か,取り組むべき基礎理論は何か,といったことを,編者による会合では長時間にわたって何回か話し合いました。じっくり学ぶべき内容をコンパクトにまとめるというやっかいな課題に,各章の担当者が実にうまく対処してくださったことで,このねらいに対応できたものと自負しています。執筆者はこれまでの版から大きく入れ替わり,各分野の中堅を中心に,実績のあるベテランから気鋭の研究者まで,それぞれの研究成果をもとにバランスのとれた執筆を心がけてもらいました。

 つい先日、ながらく本書のコーディネイトにあたられてきた先生の退任記念の研究報告を聞く機会がありました。教育実践とのかかわりで,本書のねらいと成立事情について,さらに絞り込んだ説明を聞きましたので,紹介しておきましょう。本書のコンセプトは,「学部2年生が,現代世界経済を学ぶための教科書」でした。ここで,「学部2年生」とはどういうことでしょうか。たとえば経済学部などの学生が世界経済論や国際経済学を学ぶための教科書ならたくさんありますが,これらはある程度の知識を前提にしており,学部3,4年生向けというべきものが多いようです。また,初歩的な知識なしに現代世界経済のある側面をとらえてわかりやすく解説しようという入門書も,適当なものをいくつか思いつきます。そういった入門書を読んだ後に学ぶことができ,学部3,4年生向けの教科書を学ぶための前提知識を体系的に得ることができる教科書。これが,類書と異なる本書のポジショニングでした。こういった教科書は,必要なのにどこにもない。それなら,つくろうではないか。こうして,1987年,本書の初版が刊行されました。

 幸いなことに数年ごとの改訂を経て,本書はとうとうVer.5となりました。この間,改訂のたびに,小さな「技術革新」が積み上げられて使いやすくなり,スタイルを確立してきたといえましょう。本書のスタイルがいつの間にか普及したためでしょうか,今ではかえって珍しくないというべきかもしれません。「現代」を学ぶために必要な項目の選択と厳選された章立て,最先端の課題や研究動向を伝えて好奇心を刺激する「コラム」,さらなる学習のための問いと文献紹介,そして調査のための「e-references」などがそれです。

 本書は14章で組み立てられており,1章を2回に分けて学べば,1年間の講義(通年科目)向けに最適な分量となっています。また,各章ごとに内容を選ぶとこで,半年で学ぶ講義(半期科目)の教科書としても対応可能です。ユーザーへの各種情報提供などによって,学びやすく,教えやすい,したがって息の長い教科書として使っていただけるような工夫もしてきました。

 ここまでは本書の教科書としての,いわば変わらぬ性格をご説明しました。逆にVer.5で変わったこととして,執筆者と編者の構成があります。とくに編者は一気に総入れ替えとなり,世代交代しました。Ver.5の編者は,初版ではユーザーであり,途中から執筆者になるなどしてきました。ユーザーとしての,また執筆者としての経験を編集に生かすよう心がけましたが,それがうまくいっているかどうかは,本書の新しいユーザーである先生方や学生のみなさん、そして一般読者の判断をまつしかありません。

 本書はこれまで,ユーザーの反応を編者と執筆者が次のバージョンに生かすことで,次々と版を重ねてきました。Ver.5もまた,新しいユーザーに向けてお届けするのですが,これまでの編者と執筆者のみなさんにも,心からの「お疲れ様」という言葉とともに本書をお届けしたいと思います。最後になりますが,至らぬ編者を大いに助けてくれた編集部の茅根恭子さんの奮闘なしに本書はできあがりませんでした。多くの方々への感謝とともに,本書をお届けします。

 2010年3月

編 者

執筆分担(*は編者)

  • 第1章 編者
  • 第2章 郭 洋春 (立教大学経済学部教授)
  • 第3章 中本 悟* (大阪市立大学大学院創造都市研究科教授)
  • 第4章 田中 宏 (立命館大学経済学部教授)
  • 第5章 石田 修* (九州大学大学院経済学研究院准教授)
  • 第6章 板木 雅彦* (立命館大学国際関係学部教授)
  • 第7章 毛利 良一 (日本福祉大学[通信制]大学院国際社会開発研究科教授)
  • 第8章 佐藤 秀夫 (東北大学大学院経済学研究科教授)
  • 第9章 鳴瀬 成洋 (神奈川大学経済学部教授)
  • 第10章 小野塚 佳光 (同志社大学経済学部教授)
  • 第11章 妹尾 裕彦 (千葉大学教育学部准教授)
  • 第12章 千葉 典 (神戸市外国語大学外国語学部准教授)
  • 第13章 山川 俊和 (一橋大学大学院経済学研究科特任講師)
  • 第14章 櫻井 公人*(立教大学経済学部教授)

各章のQuestionとAnswer

第1章のQuestionとAnswer

第1章:Question

  • 【1】
    多国籍企業をグローバリゼーション推進の担い手と見ることができる。多国籍企業はどのような点でグローバリゼーションにかかわり、これを推進しているといえるのだろうか。まとめてみよう。
  • 【2】
    生産の工程が分割され、これが世界に分散していくことをフラグメンテーションという。グローバリゼーションとともにフラグメンテーションが展開することになった条件は何だろうか。多国籍企業、発展途上国、その他について諸条件をまとめてみよう。
  • 【3】
    1920年代と1990年代に似ている点があるとすれば、どんな点だろうか。それぞれ長期の好況がその後に破綻した事情、それへの対策には似たところがあるだろうか。まとめてみよう。

第1章:Answer

  • 【1】
     現代の多国籍企業は、製造業であれば研究開発、設計・試作、製造、販売、アフター・マーケット・サービスなどの多様な業務を多くの外国に拠点をおいて行っている。また製造といっても、製品ごとにあるいは工程ごとに、国際的に製品間分業や工程間分業を展開している。IT(情報技術)の発達により、設計作業や各種の情報処理の国際分業も進んでいる。こうした多国籍企業のグローバル展開によって、モノの貿易、資金の国際的移転、多くの企業関係者の国際的移動、技術、知識、経営方法の国際的伝播、などが進展しており、まさにグローバリゼーションが著しく進展するのである。

     また多国籍企業はグローバル規模の事業展開を行ううえで、障壁を除去しようとする。そのために、先進工業国のサービス産業が、GATTのウルグアイ・ラウンドでサービス貿易自由化とサービス市場の開放を求めたり、あるいは知的財産を持つ先進国企業が知的財産権の国際的な保護強化を求めるのである。多国籍企業といえども、GATT/WTOの「内国民待遇」のルールによって、進出先の内国民として、その国の法律や規制にしたがう。したがって、多国籍企業は場合によっては、FTA(自由貿易協定)の締結により、多国籍企業の障壁となるような規制を除去しようとして、自国政府や相手国政府に働きかける。このようなグローバリズムの体現者が多国籍企業であり、グローバリゼーションを推進する主体となっている。

  • 【2】
     グローバリゼーショを促進する条件は、フラグメンテーションを展開する条件でもある。なぜならば、フラグメンテーションは、モノ・カネ・人の移動が促進される経済環境の変化のなかで現れた現象だからである。

     フラグメンテーションが促進されるようになったのは、まず、多国籍企業の活動の変化があげられる。従来の直接投資による先進国への事業の国際的展開とともに、途上国への直接投資による生産活動の移転が進展した。さらには、これまで構築した国際事業展開を再構築するため、事業の選択と集中を行うようになる。そのため、先進国企業は、製造工程の海外企業への外部委託を行い、それを引き受けるEMS企業(Electronics Manufacturing Service)が成長してきた。EMS企業は、世界中に工場を分散させ、あらゆる注文にも臨機応変に対応する能力を構築してきている。

     また、発展途上国の成長戦略も変化した。これまでの輸入代替工業化から、市場の自由化を進め、輸出指向工業化へと戦略を転換し、積極的に外資を誘致するようになる。このような、途上国の外資誘導政策もまた、フラグメンテーションを促進する要因となる。

     さらに、IT革命のなかで、情報の共有を促進する情報のデジタル化と情報のオープン化が進められる。このなかで進展した変化が、モジュール化である。とりわけ、生産システムのモジュール化は、複雑な生産工程をいくつかの小さな単位に分け、後でつなげることを容易にした方式で、生産工程を国際的に分散しても、工程間の調整が容易で、調整コストを低く抑えることを可能とした。フラグメンテーションとは、物理的な輸送コストの低下とともに、生産工程間の情報共有を通じた調整コストの低下のなかで促進されたのである。

  • 【3】
     1920年代にも,1990年代にも,長期の好況があり,それは永遠に続くかのように語られた。そのこと自体がバブル経済の特徴である。共通して信用の拡張があり,レバレッジを効かせた投機的な運用が盛んになった。株式市場はブームを迎えたが,1920年代のラジオ技術,1990年代のインターネット技術など,利用法の確定しない新技術が「革命」という名の下で期待だけを先行させた。両者はコンテンツを無料提供しつつ広告収入をねらうという同一のビジネスモデルだった。「自由放任」によって好況が現れたのだとする解釈が優勢だったが,バブル崩壊後には一転して政府主導の救済が必要となり,民主党政権の下で公共投資や金融規制をともなう「ニューディール」と呼ばれる大規模で包括的な政策が提起された。
第2章のQuestionとAnswer

第2章:Question

  • 【1】
    アジア各国が経済発展するうえで生じる諸問題について検討してみよう。
  • 【2】
    東アジア共同体が日本を含むアジア各国にもたらすメリット・デメリットについて検討してみよう。
  • 【3】
    アジア各国が抱える諸問題(環境、人口、食料、エネルギー問題等)の解決のため、日本が果たすべき役割について考えてみよう。

第2章:Answer

  • 【1】
     アジア各国の経済発展の最大の特徴はそのスピードの速さである。たとえば、アメリカが1人当たりのGDPが1000ドルから1万ドルに達するのに36年、韓国は19年、台湾は16年、シンガポールは17年と半分以下のスピードで経済成長を達成したことになる。こうした急速な経済成長は、国民生活を一変させたことは間違いないが、その陰で多くの犠牲を払ってきたことも事実である。

     第1には、民主主義の遅れである。周知のようにアジアの多くの国では、開発独裁という強権的政治体制を長年にわたって堅持してきた。これは、開発途上国の場合、国民和合・融合が様々な問題により進展せず、それが経済成長の足を引っ張ってきたという経験があるが、開発独裁は国内の混乱を強権的に抑えつけ、国家のめざすべき目標に経済開発=工業化・近代化を掲げることで、国民の不満を抑えながら経済成長を加速させてきたという歴史がある。この体制の下、多くのアジア諸国は急速な経済成長を達成することができた。しかし、民主主義を犠牲にした結果、経済開発の過程で多くの民衆が抑圧された。その結果、著しい場合には、民族間対立、地域間対立など様々な対立が残存することになった。

     第2に、環境破壊が悪化する場合が見られる。典型的なのは中国で、中国は大規模な工業化を実現する過程で大量の二酸化炭素を排出し続けただけではなく、水質汚濁、土壌汚染、砂漠化など多くの環境破壊をもたらしている。その背景には、環境対策に資金と時間、労力をかけるとその分経済成長が鈍化する、との考えから、公害は工業化過程の必要悪とみる見方が強いからである。しかし、いったん引き起こしてしまった環境破壊はその修復・回復には、膨大な費用と時間がかかり、かえって将来の経済発展の足かせになることを考えなければならない。

     第3に、国内において様々な格差が生じる。経済開発の初段階で採られる経済政策の根底には、アルバート・ハーシュマンが提唱したトリックル・ダウン(均霑)効果を期待するあまり、一部のリーディング・インダストリーを保護・育成するきらいがある。その結果、保護・育成された産業・企業とそうではない産業・企業との間には格差が生じることになる。いったん生じた格差は容易には縮まることはなく、逆に拡大することもあり、富の一極集中という問題が発生する。韓国の財閥がその典型で、国内総生産の半分以上をわずか30の財閥で形成するなど、富の偏在が社会問題する場合もある。

     以上のように、アジア各国の経済成長は量的発展の陰で、多くの質的問題をも含んでいるということができる。

  • 【2】
     日本で、東アジア共同体が注目されるきっかけとなったのは、2002年1月に小泉首相(当時)が、日本・シンガポール新時代経済連携協定を締結した際、東アジアに「ともに歩みともに進む」コミュニティを作ることを提案し、翌年の12月の日本・ASEAN特別首脳会議で「東アジア・コミュニティ構築のために協力する」ことで合意したことにある。

     東アジア共同体を考える場合、どのようなメリットとデメリットがあるだろうか。まずメリットして考えられるのは、政治的には、今まで一国レベルで対応・行動してきた国際外交の舞台で、共同体全体の意見を集約することで、今まで以上に強い発言力を持って、域外国と外交交渉に臨めるということ。第2に、共同体締結国との関係においては、共通の利害関係を共有したことで、安定的な外交関係が期待できるということがある。

     また、経済的には、第1に、経済的な協力体制を構築することで、通貨危機のような経済危機に陥った時、共同かつ迅速に対処できるということ、第2に、 関税の撤廃などでより効率的な経済システムを構築できること。具体的には、貿易創造効果(域内の貿易障壁撤廃により、域内貿易が拡大する)、貿易転換効果(域内の貿易障壁撤廃により、域外の効率的(低コスト)生産国からの輸入が域内からの輸入に転換される)、交易条件効果(共通関税の設定により、地域統合加盟国の購買力が強化され、域外からの輸入価格を押し下げる)、市場拡大効果(域内の貿易障壁撤廃により市場が拡大し、規模の利益による費用低減が可能となる)、競争促進効果(域内の市場開放により、国内市場への競争圧力が高まり生産性が高まる)が考えられる。要するに、貿易を通じて価格低下やコスト削減などを実現することにより、経済が活性化するということだ。

     さらに、社会的には、ヒト、モノ、カネの自由往来が今まで以上に活発になることで相互信頼の醸成と信頼関係が強化される。

     一方で、デメリットとしては、政治的には域内国の利害が優先される結果、国内政治の自由をある程度制限されたり、様々な制度を改編することで国内に混乱が生じる可能性がある。

     経済的には、各国独自の経済政策が制約される可能性があり、特に景気後退期などに思い切った財政・金融政策などの実施が困難になる恐れがある。また、国内の比較劣位にある産業がますます弱体化する可能性がある。社会的には、日本のような先進国に単純労働者が大量に流入し、治安の悪化や価値観・生活様式の違いから様々な摩擦が起きる恐れがある。

     こうしたデメリットを最小化し、メリットを最大化するためには、各国による十分議論と、問題が発生した際に共同で対処するという信頼関係を各国政府が事前に協議しておくことが重要である。

  • 【3】
     アジア各国が抱えている諸問題は、日本がかつて経験した問題であったり、現在直面している問題である。その意味で、アジア各国と日本は共通の課題に直面しているということができる。

     まず環境問題であるが、生活環境、公害、地球環境の問題が同時に存在するアジアでは、問題解決のための人材、技術などの資源が制約されているのが実情である。しかし、先進国、特に日本がすでに経験し克服してきた問題も多く、国際的、地域的な協力がなされれば解決できる問題も少なくない。環境問題は、急速な経済成長を続けるアジア地域において特に顕著な問題となっているが、その解決は、同地域のみならず世界の持続的発展にとって不可欠の課題である。そのために、1960年代に水俣病を発生させ、多くの公害被害を経験し、今日では環境先進国と呼ばれている日本の経験を提供することが重要である。

     人口問題は、アジアはすでに世界人口の6割を占めており、平均寿命の上昇と出生率の低下から人口構造の高齢化が進みつつある。このことは、今後、雇用問題に加えて、社会保障負担の増大等、高齢化社会に伴う諸問題が顕在化する可能性を示唆している。

     食料問題は、アジア5カ国(中国、インド、インドネシア、タイ、韓国)では、人口増加に加え摂取カロリーの上昇や需要構造の変化により食料需要は今後も増大すると予想される。他方、これらの国は、1人当たりの耕作地面積が欧米に比べてかなり小さいこと等から、生産面、特に農業技術やインフラ整備を含めた国際協力が重要である。

     エネルギー問題は、経済成長とともに世界のエネルギー消費に占めるアジアの比重も年々高まりつつある。アジアでは電力化と輸送用エネルギーの増大への対応が課題である。エネルギー問題が地球規模の問題であることを考えれば、資源開発、インフラ整備、省エネルギー等の国際的協調が重要である。

     以上の諸問題はいずれも日本からの資金と技術、人の提供と、情報交換を通して共同対処することが可能となる。また、その問題の深刻さ、規模からして決して一国では解決できない問題でもある。そのために、各国の協調が必要であるが、それを提唱しまとめることができるのは、アジアで唯一の「先進国」である日本以外にないであろう。問題は、日本にそれを遂行するだけの決意と熱意があるかどうかである。それができた時、日本はアジア各国から信頼される国になるだろう。
第3章のQuestionとAnswer

第3章:Question

  • 【1】
    「ドル危機」の過去と現在、その段階的な深化について考えてみよう。
  • 【2】
    供給重視の経済学と需要重視の経済学を比較したうえで、政策的にはどのような違いがあるのかについて考えてみよう。
  • 【3】
    アメリカの資産市場におけるバブルの原因とバブル対策について、具体的な事例に即して考えてみよう。

第3章:Answer

  • 【1】
     1944年7月に、アメリカのニューハンプシャー州のブレトン・ウッズで開かれた連合国通貨金融会議において調印されたIMF協定(国際通貨基金協定)は、第2次世界大戦後の国際通貨体制の枠組みを創出した。IMF協定によってアメリカの国民通貨であり、国内では不換通貨(銀行で金との交換がされない)であるドルは、基軸通貨としての地位を得た。基軸通貨として、ドルはさまざまな国際取引のための取引通貨であり、また国際決済のための通貨であり、価値を保蔵するための通貨となったのである。そして、IMF協定により、各国の通貨はドルと固定レートでリンクすることになった(固定相場制)。

     またアメリカは、対外的には外国の政府や中央銀行といった公的機関に対してのみ、金1オンス=35ドル(すなわち1ドル=0.8867グラム)のレートで、外国の公的機関が自身の保有するドルと金との交換を要求した場合には、その交換を行うことをいわば国際公約にしていた。実際には、戦後復興期には世界各国はドル不足であり、復興に必要な外貨としてのドル資金はIMF協定による融資ではなくて、アメリカ政府による経済援助という形で供給された。

     しかし、その後ヨーロッパや日本が戦後復興と1960年代以降の経済成長を実現するにつれて、アメリカの国際収支の悪化とヨーロッパや日本の金・ドル準備が増加した。そして1965年には、外国の公的機関保有ドル残高は、アメリカの通貨当局保有の金準備を上回るようになった。外国の公的機関が、アメリカに対して公的機関が保有するドルを金と交換するように要求すれば、その交換が不可能になるという事態が生じた。この段階では、金・ドル交換性の危機という意味でのドル危機が生じたのである。

     そこで、アメリカはドル流出を抑制するために資本輸出を抑制する金利平衡税の導入、多国籍企業や銀行による対外投融資に対する規制を行うとともに、ドル準備を保有する各国にドルと金との交換自粛を要請した。しかし、その後もアメリカの国際収支の改善はならず、ドル流出が続くとともに、フランスやベルギーは金との交換を要求したため金流出も続いた。そしてついに、1971年8月15日に、アメリカは一方的に金・ドル交換性の停止を宣言した。その後、通貨投機が生じ固定相場制を維持することが困難になり、1973年以降世界的に変動相場制になった。

     ドルは現在も基軸通貨である。したがって、アメリカは世界最大の対外債務国であるにもかかわらず、国民通貨ドルで決済することができる。そしてその結果、さらに債務を増やしている。このため、絶えずドル価値低下の不安を引き起こし、そして実際にドルが暴落すれば世界のドル保有国に大きな損失を与える事態となっている。現在では、アメリカ経済の国際的な地位が低下するなかで、最大の債務国となったアメリカのドルが基軸通貨たりうるかどうかといった根本的な意味でのドル危機が進行している。

  • 【2】
     経済は供給と需要のバランスが重要である。供給過多の場合には過剰生産不況になるし、需要過多の場合には物価上昇を招く。1930年代の大不況のなかで登場したのが、財政・金融政策によって総需要(個人消費、投資、政府支出、輸出)を創出し、不況からの回復を図るケインズ主義政策であり、需要重視の経済学を基礎としている。財政出動による政府支出の増加や減税による消費需要の拡大、あるいは金利引き下げによる投資需要の拡大など、マクロ経済政策が主たる政策手段となる。この政策は、第2次世界大戦後の先進工業国の高度経済成長期の景気安定化政策として共通してみられた。

     しかし、1970年代前半のスタグフレーションをきっかけに、ケインズ主義政策の失効を唱える議論が台頭してくる。それが供給重視の経済学である。その主張によれば、政府が財政支出を拡大して需要を創出しても、超過需要は物価上昇と賃金上昇を招き、実質所得はまったく変わらないとする。重要なのは、供給を増加させることであり、個別(ミクロ)の供給主体に供給を増やすような刺激を与えることが、その政策手段となる。たとえば、個人所得減税によって税引き後の所得を高め福祉で生活するのではなく就労に誘導する、経済規制を緩和し競争を誘発する、ベンチービジネスやベンチャーキャピタルを育成する、新技術開発の促進、労働市場の流動化を妨げるような労働組合の行動を規制する、などである。総じて、供給重視の経済政策は政府介入を避け、市場原理を働かせることで供給を増やそうとする。政府が介入する場合でも、たとえば雇用政策においては、ケインズ主義政策では総需要の増加によって雇用機会を増やすことが重視されるが、供給重視の経済政策では教育や訓練によって労働能力や技能を高め労働需要へのマッチング(適応)が重視される、といった違いがある。

  • 【3】
     金融資産や不動産は、それらに投資することによって、一定の利益を得ることができる。たとえば、株式の場合には企業の利益の分け前である配当を、国債の場合には利子を、また土地の場合には、その上に商業施設を作って賃料を稼ぐことができる。たとえば駐車場をつくり、そこから駐車場料金という賃料を得ることができるのである。

     いま、年間500万円の駐車場料金を得られる土地の地価は、どれくらいが合理的なのだろうか。金利5%の場合、地価が8000万円だとすれば、銀行から土地購入資金を借りても借り入れ金利は400万円、賃料は500万円だから100万円の純益が出る。そこで土地需要が高まり、地価が上昇する。地価が1億1000万円になると、銀行借り入れで土地を購入すると借り入れ金利は550万円であり50万円の損失とを出す。そこで今度は土地需要が低下し地価も下がる。結局、1億円の地価であれば損も得もない。すなわち、賃料を利子率で除した(資本還元するという)値が合理的な地価ということになる。株価の場合は、配当を利子率で除した値が基準株価となる。これらの資産価格は、いわば基準地価であり、この価格を超えて地価なり株価が上がり続けることはない。また、この価格を割って地価なり株価が下がり続けることもない。その価格は、実体をもっているからである。

     しかし、資産投資で得られる利益は、配当、利子、賃料といったインカムゲインだけではない。キャピタルゲイン(資産の売却益)もある。キャピタルゲインの場合には、さまざまな予想によって株価や地価が上昇すると見れば、思惑や期待によって投資が行われる。たとえば、ある企業の新技術開発が成功しそうだというニュースが広がると、将来の利益を見越してその企業の株式への投資が集中する。すると株価が上がるので、キャピタルゲインを求めてさらに投資が増え、さらに株価が上がる。株価が上がるから投資が増え、投資が増えるからまた株価が上がる、ということになる。こうした事態は投機といわれ、そこでの価格高騰はバブルといわれる。バブルは、何らかの合理的な理由で価格高騰したものではない。したがって、資産価格が下がるという予想に転じるや、投げ売りが始まり価格は急低下することになる。資産価値は、文字通り水泡のごとく弾けて消えてしまうのである。バブルには、将来も価格が上昇し続けるという思惑と価格が高騰し続ける資産市場に次々と流入する資金が不可欠である。

     アメリカの株価は1990年代に入って持続的に上昇したが、当時はIT投資が持続するという予想をもとにIT関連株が先導して株価が上昇した。1996年12月5日に、連邦準備制度理事会のアラン・グリーンスパン議長が、この株式相場の急騰に対して「根拠なき熱狂」(irrational exuberance)と発言し、株式バブルに警告を発した。実際にはその後も株価は上がり続け、株式バブルは2001年に弾けた。その後は、不動産バブルが生じた。不動産価格が上がるという予想のもとに、不動産価格が上昇し続けたのであり、その予想をもとに住宅抵当貸付関連の証券価格も投機した。このようなバブル市場には、年金基金や生命保険などの機関投資家、海外からの資金、そしてヘッジファンドなどの資金が投入された。
第4章のQuestionとAnswer

第4章:Question

  • 【1】
    EC/EUは経済力を強化するためにどのような統合政策を採用したのか、またその結果はどのようになったのか。
  • 【2】
    経済通貨同盟の基本的特徴を押さえて、2008年からの世界金融危機・同時不況がどのようにEUを襲ったのか、まとめなさい。
  • 【3】
    他の章と田中素香著『拡大するユーロ経済圏』を参考にしながら、EU市場圏で活躍する日系企業の特徴について調べなさい。

第4章:Answer

  • 【1】
     19世紀、欧州各国(企業)は世界市場を席巻するほどの競争力を持っていた。だが、2つの世界大戦を経験すると、その世界市場の主役の座は米国(企業)に移っていった。そして1970年代以降、日本・アジア(企業)が世界市場で飛躍してきたこととは対照的に、優位性を持っていた分野の競争力もしだいに失われ、さらに1990年代以降、米国(企業)を中心に情報通信革命やグローバル化が本格的に展開するなかでも、欧州各国(企業)は十分な国際競争力を挽回・回復できるまでにはならなかった。だから、EC/EUの経済統合の前進は、その不十分な国際競争力を復活・育成・強化させることを常に意識し、そのための諸政策を揃えてきてきた。

     EC/EUの国際競争力を考える場合、広義と狭義の2つの側面から考察できるだろう(その前に、私たちが日常的に使っている「日本の国際競争力」や「米国の国際競争力」と同じようにEC/EUの国際競争力を語ることができるかどうか、が問題となるだろう。たとえば、ポール・クルーグマンのナンセンス論だが、ここではその問題には触れない。EC/EUの国際競争力を、世界経済におけるEU全体の生産性や世界市場での輸出能力の伸び、あるいは反対に産業空洞化として理解する)。

     まず、狭義の国際競争力強化政策(あるいは産業政策)を見ていこう。それは各加盟国政府によって担われている。そのための権限とそれを裏付ける財政は基本的に各国政府に属するからである。ここではその点についてこれ以上触れないが、次の点は指摘しておかなければならない。つまり、欧州における企業の国際競争力は各国別のその国特有な生産・経済システムなしには存在しない。伝統的な機械産業におけるドイツの強さは、ライン型資本主義とよばれる、伝統的な間接金融、イノベーション・生産システム、教育・技能訓練システムを抜きにしては存在しないし、エリクソンやノキアに代表される情報通信技術部門における北欧の高い競争力は、北欧諸国独特の高い教育水準と労働市場の流動性、規制緩和なしには実現できなかった。欧州共通の生産・経済システムが誕生しているわけではない。また、1人当たりではなく労働時間当たり生産性を比較すると、欧州は必ずしも一方的に国際競争力が低下しているわけではない。

     次に、広義の意味に移ろう。その点では、EC/EUにおける国際競争力を強化するための政策とは経済統合そのものである、ということができる。つまり、1960年代まで関税同盟や共通農業政策、さらに共通通商政策、1985年以降の人・モノ・資本・サービスの自由移動を実現する域内市場の完成、さらに1999以降に実現する単一通貨・ユーロの導入、これらは、基本的には、規模の小さい寡占的な国内市場の枠を外し、米国市場に相当する大規模な統一市場のなかに欧州の生産者・企業を置き、そのフラットな条件の下で相互に競争させることによって、世界市場のなかでより高い競争力を持つ企業を復活・育成・強化しようとする、ものである。また共通政策、単一市場、単一通貨で、企業活動に必要な、取引費用や間接経費を含む諸費用のコストを引き下げる狙いもあった施策である。そのなかでその最も精鋭的な役割を担うのがEC競争法である。これは寡占企業が自由競争を歪めるのを押さえ、単一市場の利益を引き出すことを狙った。これらは、すべての産業に共通した基盤(情報インフラ、教育人材育成)整備と重なって、「水平的産業政策」と呼ぶことができるだろう(以上、田中・長部・久保・岩田著『現代ヨーロッパ経済』有斐閣参照)。

     EC/EUはエアバスの育成、欧州情報通信開発戦略(ESPRIT)、欧州研究協力機構(EUREKA)や欧州横断輸送ネットワーク(TEN)による欧州規模でのインフラ整備を推進してきたが、それを集大成したものが2000年の「リスボン戦略」である。この「戦略」は2010年までに世界で最も競争力があり、かつ強力な知識基盤型経済・社会を構築すること、特にIT革命を主導とするイノベーションの飛躍的促進を狙ったものだった。だが、この目標は達成できなかった。その目標をも吹き飛ばした世界金融危機・同時不況のなか、2009年12月リスボン条約が発効した。それを受けて、この危機と不況からの「出口」政策として、2010年3月欧州委員会は「欧州2020」を提案した。(1)スマートな成長(知識、技術革新、教育、デジタル社会の発達)、(2)持続的な成長(競争力の強化と生産の資源効率向上の両立)、(3)包括的な成長(スキルの向上による労働市場への参加拡大と、貧困との闘い)を3つの柱にしている。そのなかで研究開発(R&D)投資の対域内総生産(GDP)比率を従来の1.9%から3%に引き上げることで、EU全体で競争力の底上げ(特によりグリーンな分野)を狙っている。

  • 【2】
     EUの経済通貨同盟は、単一市場、競争政策、構造(地域)政策、マクロ経済政策を担う経済同盟を基礎にして、その上に単一通貨と単一中央銀行からなる通貨同盟が成り立つ形で構築されている。経済通貨同盟に至るまでの経済統合の歩み、特に1993年にほぼ完成する市場統合は、単一市場、競争政策、構造政策を実現してきたので、経済通貨同盟は残りの、マクロ経済の安定化と政策の共通化、単一通貨(ユーロ)の創出、欧州中央銀行の制度化が主要な柱となった。このうち、マクロ経済の安定化は、ユーロ導入のための4条件(物価安定、低金利、為替相場の安定、健全財政)の設定で共通化され、導入後もユーロの価値を維持するために安定成長協定(特に健全財政)締結によって実質化されてきた。

     これらの結果、欧州経済、特にユーロ域経済には次のような経済金融空間がつくりだされた。つまり、第1に、ユーロは、通常の国民通貨とは異なり、中央銀行が制度化されながらも、「最後の貸し手」や(欧州)財務省、(欧州)金融機関規制・監視・監督機関を持たない、「国家なき通貨」として流通しはじめた。第2に、金融政策はEU・ECBに集権化されたが、財政政策は加盟国政府に分権化されたままであった。しかも安定成長協定の重石で、各国の赤字財政出動が抑制された。しかし、それに代わって、EUの独自財政は拡充されなかった。このため、マクロ経済安定化により欧州経済は体質改善が進んだ。つまり、ヨーロッパ自体が成熟社会経済に向かったのと合わさって、欧州経済は全体として低需要圧力を基調とする経済になっていった。第3に、ユーロ導入を契機に、各国金融市場の間の統合と各金融市場間の統合がともに前進して、それらが有機的に結合し、欧州に単一金融・資本市場が成立した。そのなかで短期金融、国債、株式、デリバティブの各市場で、大陸金融市場のポジションが上昇し、日米欧3極間取引の欧州拠点として機能しているロンドン・シティは、相対的に地位低下が進行した。この単一金融・資本市場に寡占的な「総合大銀行グループ」が誕生し、膨大な資本・資金と信用が集中的に流れ込み、しかもより高い金利・収益性を求めて動いた。

     その膨大な資金・信用の一部は、第1に、ロンドン・シティを仲介・経由して、米国金融機関(ノンバンク)の有毒証券(トキシック・ペーパー)の購入とサブプライムローンに融資された。しかも米銀よりも数段高いレバレッジ戦略が採用された。さらに第2に、欧州で融資された資金の流れは2つに分かれた。その一つの流れはごく一部の国を除いて不動産バブルに向かった。これはスペイン、アイルランド、イギリスでもっとも酷かった。もう一つの流れは東欧に向かった。EU加盟とユーロ導入の準備から長期的成長のユーフォリアが生まれ、建設ラッシュと賃金上昇、消費ブームそれに不動産・住宅バブルを引き起こし、またインフレも加速させた。

     リーマン・ショックに始まる世界金融危機は、欧州に「ドル不足」を引き起こし、続いてユーロ安と株価の急落、信用の収縮、信認の低下をもたらした。このことが世界同時不況を呼び起こし、輸出の縮小、家計部門の見通し不安、企業部門の先行き不安と生産・投資の縮小を連動させることになった。EUのコア諸国の金融危機はその南欧周辺諸国や新加盟の東欧諸国から資金を引き揚げ、同時不況は、新加盟国の輸出市場の喪失、実体経済の収縮を呼び起こした。このことが反作用して、欧州経済全体の底抜けと金融・資本市場の崩壊をもたらす危険性を生み出した。そこでEU・ECBと各国政府・金融機関は足並みをそろえて危機対策に乗り出していった。

  • 【3】
     欧州の日系企業は、欧州統合の展開(停滞と前進)と東欧の体制転換に強く影響を受けながら、経営・生産活動の欧州化を展開していった。

     最初に欧州の多国籍企業の動向を観察してみよう。まず、グローバリゼションの波はアジアだけではなく、欧州経済圏にも押し寄せてきた。この動きは1970年代に入って開始されたエレクトロニクス革命、後のIT革命によっても加速された。そのなかで、欧州の多国籍企業は、バリューチェーンによるビジネス過程の分解と、そのアウトソーシングやオフシェアリングを展開して、競争優位を回復・維持・発展させようとしてきた。その結果、欧州大企業は、自国の生産拠点を周辺国へ移すことでビジネス全体の再編成を行い、EC規模での西欧地域生産ネットワークを構築していった。

     1990年代になると、欧州経済圏では2つの構造的・制度的変動を経験する。1つは、統合が深化し、単一市場の構築と単一通貨ユーロが実現して、単一金融・資本市場が生育してきたことである。これによって、欧州の企業・金融機関はFDIや融資を通じて欧州周辺国への進出を加速させた。もう1つは、1990年代初頭、東欧諸国が社会主義計画経済体制から市場経済、資本主義へ体制転換したことである。その政治的体制転換が確実になり、マクロ経済が安定化してきた1990年代後半になると、旧国営企業の民営化が本格的に開始される。その民営化に主要な西欧の外資が参入した(ブラウンフィールド投資)。そして西側に売却された企業は、西欧の経営手法、労務管理、生産管理を導入するだけで、大幅な生産性を引き上げることができた。西欧基準でのリストラを促進した。では、どのような産業に西欧企業が進出したのか。あらゆる分野に進出したが、その中心は製造業であり、そのなかでも自動車産業が圧倒的であった。次に電気・電子機器産業、そして化学が続いた。製造業の次には卸小売業、そして金融仲介業(銀行、証券、保険)、さらには不動産業、続いて運輸・テレコム・電力・ガスのインフラ整備が続いた。東欧の銀行・金融業のほとんどは西欧金融機関の支配下に入ってしまった。また、外資の流入は、現地地場企業や下請けの協力体制を構築した。部分的に地場産業の成長を促した。このことにより、徐々に中東欧諸国では、技術集約型、熟練労働集約型の貿易シェアが上昇し、西欧諸国と双方向貿易、産業内貿易が進行していった。中東の3・4カ国(ポーランド、チェコ、ハンガリーそして現在ではスロヴァキア)は製造品、部品、中間財、完成品の生産輸出基地として機能していった。

     このような欧州企業の活動に対して、日系企業はどのようにEUビジネスを展開してきたのか。対EU経済圏ビジネスを、FDIの動向で押さえると、市場統合と通貨統合が前進し、EUの東方拡大が進展すると、それに対応して、対EU直接投資の増加が見られる。ここではEUの対日投資の動向は触れない。日本の対外直接投資のフローで見ると、1990年代末をピークに日本の対外直接投資は鈍っているのに、対EU投資は増加傾向にある。2000年代初頭には対米投資よりも対EU投資額のほうが凌駕している(もちろん、累積額では対米投資が対EU投資を上回っている)。

     その対EU直接投資のセクター別の特徴は、非製造業部門が製造業部門を上回っている。非製造業セクターでは金融・保険が圧倒的に突出し、その次に商業となっている。サービスや運輸は極めてすくない。製造業では電気・電子と輸送機器が太宗を占め、そのあとに機械、化学が続いている。このようにごく限られた分野(金融・保険、電気・電子と輸送機器)に集中していることが日系企業の対EU進出のひとつの特徴である。国別特徴では、日本の直接投資(新設件数、累積額で)は英国に集中していることが特徴であったが、しかし徐々に大陸部であるベルギー、フランス、ドイツに移っている。物流センターも大陸部に移ってきている。

     では、EU東方拡大で日系企業のビジネス活動はどのように変化したのか。第1に、チェコ、ハンガリー、ポーランドなどの中東欧諸国に、新規の生産拠点が新設されている。そのグリーンフィールド投資が特徴である。その業種別を見てみると、自動車部品メーカーが圧倒的に多く、その次に電気・電子部品、一般機械、電気機械と続く。特に上記3カ国に自動車関連の地域的集積が加速化している。

     このような生産拠点の中東欧移転の根拠となっているのは、労働コストの低さ(西欧の5分の1)、労働力の質の高さである。一部では、従来生産の中心であった英国やドイツから生産ラインの一部を移転する企業も増えてきており、この傾向は将来も続くものと考えられる。反対に、人件費の高騰、EUへの人材の流出、投資優遇制度の廃止等のデメリットを感じる企業も出てきている。これらの日系企業はさらに東方をめざしている。

     第2に、しかしながら、中東欧への日系企業の生産拠点の移動は、旧来の西欧における拠点国(英国、ベルギー、仏、独など)での投資(件数、累積額)が大幅に減少し、英国、ベルギー、ドイツなどの西欧市場での日系企業の活動が空洞化することをそのまま意味するわけではない。在西欧生産拠点を縮小する大掛かりな動きは見られず(2006年時点)、販売市場はまだ西欧中心である(EU市場への製品供給の生産拠点としての中東欧)。日系企業の地域統括本部、R&D・デザインセンターは西欧諸国にとどまっている。ただし、原材料や部品の調達先はもともとの西欧諸国、日本から中国、ASEANそして中東欧に拡大している(JETRO:『在欧州・トルコ日系製造業の経営実態・2006年度調査』)。日本式の生産管理システムの移転では、大陸欧州と同レベルで世界的には低い水準にあるが、その労務管理のソフトな方式では、西欧と比べて移転度合が相対的に高く、日本人派遣や機械・部品といったハードな側面では比較的低い(和田正武・安保哲夫編著『中東欧の日本型経営生産システム』文眞堂)。中東欧での日系企業の生産ラインは、日本の本社の直轄管理下のもとで、短期間の日本人技術者派遣の繰り返しにより操業・生産管理することでその高い品質を維持している。
第5章のQuestionとAnswer

第5章:Question

  • 【1】
    国際貿易の構造を分析する視点にはどのようなものがあるか、説明しなさい。
  • 【2】
    自国と外国が第1財と第2財を生産し、次のように商品1単位当たりの必要労働数が与えられているとする。

      第1財 第2財
    自国 10 5
    外国 20 40

    自国はどちらの商品に比較優位があるか説明しなさい。また、交易条件(第1財と第2財の交換比率)が1である場合、比較優位を持つ商品生産に特化して貿易することが両国に利益であることを示しなさい。さらに、両国とも貿易の利益を得ることができる交易条件の幅を示しなさい。
  • 【3】
    企業行動が大きく変わった。それにより貿易構造はどのように変化したか、説明しなさい。

第5章:Answer

  • 【1】
     まず、商品分類から貿易構造が分析できる。商品分類は、財とサービスの貿易に区別されるが、なかでも財貿易には、産業分類、用途別分類、そして、技術別分類がある。産業分類から見た貿易構造は、経済発展を示すものと考えられてきた。しかし、最近では、多くの国に同じ産業部門の輸出が見られるため、産業分類による分析だけでは貿易の特徴が把握しにくくなっている。それに対して、用途別分類では、同じ産業でも、一方は部品を輸出し、他方は、消費財を輸出するというように、産業内部の貿易構造の違いを見ることが可能である。さらに、商品に投入された技術の違いから、ハイテク財とローテク財という区別ができる。この区別から見た輸出構造から、その国の技術の定着度が判断できる。

     次に、経済単位から見た貿易構造が分析できる。経済単位とは、国民経済と企業、そして、両者の中間単位である産業がある。貿易は、居住者をベースとした国民経済単位間の取引である。しかし、貿易を産業単位から見ると、異なる産業間の貿易であるか、同一産業内部の貿易であるかという区別ができる。とりわけ、産業内貿易が最近の貿易構造の特徴を示す。さらに、企業単位から見れば、企業内部で形成される貿易が注目される。

    詳しい解答
     まず、商品(財)の分類と経済単位という2つの観点から説明したい。最初に、商品(財)分類の観点から貿易構造の分析視点を説明しよう。

     第1に、産業分類から見た貿易構造の視点がある。まず、大きな産業分類として1次産業と2次産業という分類がある。ある国の輸出が1次産業の商品が主であるか、2次産業の商品が主であるかというように、貿易構造を大まかにとらえることができる。さらに、商品分類には繊維産業や自動車産業というように、より細かく分けた産業分類がある。たとえば、繊維産業は労働集約的産業で、それに対して自動車産業は資本集約的産業であり、どの産業の輸出が多いかで、その国の貿易構造の特徴を示すことができる。一般的に、産業分類から見た貿易構造は、その国の発展段階を反映する。つまり、経済発展に応じて、第1次産業よりも第2次産業の輸出が大きくなり、さらに、第2次産業のなかでは、労働集約的産業よりも資本集約的産業の輸出が大きくなる。

     第2に、素材、部品、資本財、消費財というように、商品の生産過程での用途による財分類がある。このような分類から貿易構造を見ることは、最近の貿易構造を把握するうえで重要である。たとえば、急激な経済成長を遂げている中国を見てみよう。そこには、先進国と変わらない電機、自動車などの産業が発展し、先進国と同じような産業構成を持つようになってきている。そして、電機産業の貿易構造を見ると、両国とも輸出が拡大している。しかし、日本と中国が同じように電機産業の輸出が拡大しているとしても、用途別財分類で電機産業内部を観察すると、日本は部品を輸出し、中国は消費財を輸出しているという構造が浮かび上がる。

     第3に、商品に投入された技術の違いから貿易構造を分析できる。商品に投入された技術水準が低い場合はローテク製品、高い場合はハイテク製品と呼ばれる。ハイテク製品を輸出している国は、経済の発展した国であるといわれるが、近年では、それが当てはまらない場合がある。というのも、国際間で最新技術を体化した生産設備が貿易され、また、目に見えない技術も移転されている。そのため、アジアの発展途上国のなかにはハイテク製品を輸出している国が見られる。そのため、ハイテク製品の貿易は、技術開発と技術の移転を反映した貿易構造、すなわち、技術の定着度を反映した貿易構造ということができる。

     第4に、サービスの貿易も最近の特徴である。サービス貿易は、無形の商品であり、商品が国境を越えて取引される場合や、商品提供者が国境を越えてサービスを提供する場合もあり、財貿易の取引形態と異な特徴を持つ。さらに、サービス産業内部でも、用途別分類が可能であり、そこから、サービス貿易の構造を見ることができる。最近は、最終消費ではなく、中間投入を目的にしたサービスの貿易が拡大している。

     次に、経済単位から見た貿易分析の視点を提示しよう。
     第1に、伝統的な貿易構造は、産業間の貿易である。従来は、先進国が第2次産業、発展途上国が第1次産業に比較優位を持つとか、先進国は資本集約的産業、発展途上国は労働集約的産業に特化するというような構造であった。

     しかし、第2に、すでに商品分類から見た貿易構造で確認したように、産業内部での貿易構造の変化が最近の貿易構造の特徴であると考えることができる。つまり、産業内貿易における、用途別財分類からの視点である。さらには、同じ用途の財として、日本と中国の間で部品が相互に輸出されることが観察される。この場合、注意してみると、日本は高品質の部品を、中国は低品質の部品を相互に輸出しているというように、財の品質が異なることが指摘できる。

     くわえて、第3に、企業が海外直接投資を通じて海外展開するなかで、自国の本社と海外の子会社との間で貿易が行われる。このような貿易を企業内貿易という。企業内貿易に関する統計は、十分に整備されていないが、UNCTADの推計によれば、世界全体の貿易の3分の1は企業内貿易であるといわれる。

     また、本章では指摘していなかったが、最近では、企業内貿易とともに、海外進出した子会社を通じた現地販売の動向が注目されている。これは、企業の国籍に注目した経済活動に注目したものである。従来の国際収支表では、居住と非居住者の取引が計上されているため、国籍に基づいた経済活動の把握が不可能であった。そこで、国籍に基づいた企業の国際活動を把握するための統計の整備が進められている。このような、企業の国籍に基づいた国際取引活動を把握するための統計を、foreign affiliate trade statistics (FATS)という。

     日本の製造業でアジア地域現地法人の販売先の動向を見てみると、2002年以降は、現地販売比率が日本向け輸出比率を上回り、増加し続けている。また、製造業地域現地法人の地域別売上高では、2004年以降アジア地域が北米地域を上回っている。そして、サブプライム問題に端を発する金融経済危機後では、新興国での現地販売が注目されている。
  • 【2】
    自国は外国よりも絶対優位であるが、以下のように考えてみよう。

      自国の第2財1単位に対する第1財の相対費用  10/5=2
      自国の第1財1単位に対する第2財の相対費用  5/10=1/2
      外国の第2財1単位に対する第1財の相対費用  20/40=1/2
      外国の第1財1単位に対する第2財の相対費用  40/20=2

     すると、自国は第2財に、外国は第1財に相対費用が低く、比較優位を持つことがわかる。
     さらに、貿易前は、自国の国内で、第2財1単位は、第1財0.5単位で交換され、外国の国内では、第1財1単位と第2財0.5単位が交換された。交易条件が1であるとすると、自国の第2財1単位と外国の第1財1単位が交換される。したがって、生産特化して、貿易すると、自国も外国も貿易前よりも、0.5単位だけ多くそれぞれの財と交換できる。確かに、貿易するほうが、より多くの財と交換できる。
     最後に、貿易の利益のある交易条件の幅を確認しよう。それぞれの国が、0.5単位よりもより多くの財と交換できることが条件となる。したがって、貿易の利益が得られる交易条件(T)の幅は、
         0.5 である。
  • 【3】
     商品の付加価値連鎖であるバリューチェーンは、国際的に分散される傾向にある。なかでも、企業内部の付加価値の低い生産工程は途上国に分散され、付加価値の高い部門は先進国にとどまる。さらに、製造そのものを海外の企業に外注化する企業も多数存在している。したがって、製品の部品生産や組立が、多数の途上国に居住する企業で行われるようになる。このような生産工程の国際的分散を引き起こす企業行動は、貿易構造を変化させる。とりわけ、生産工程の国際的分散は、部品貿易を拡大させる。同時に、産業内貿易も拡大していく。産業内貿易には、部品と消費財の貿易のように、異なる生産工程に関わる財の一方向の貿易とともに、同じ財の双方向の貿易が見られる。同じ財の双方向貿易では、互いに品質の同じ財の双方向貿易(水平的産業内貿易)と異なる品質の双方向貿易(垂直的産業内貿易)に区分できるが、特に、後者の垂直的産業内貿易が拡大している。

    詳しい解答
     商品を研究開発し、その設計が決まると、試作品を作り、その後初めて、素材を選定し、小さな部品を作り、そして、それらを集めてより大きな組成部品を製造し、それらを組み立てて完成品を生産するという、バリューチェーンが形成される。こうして生産された商品が販売活動(マーケティング)を通じて私たちの手元に届くわけである。このような、商品の各工程に関わる企業行動から、貿易構造を考えてみることができる。そこで、アジア域内に形成されたバリューチェーンが重層的に形成する生産ネトワークの貿易構造として、中間財(部品)のアジア域内調達に関わる貿易と、最終財の域内・域外へと販売するための貿易、という2つの側面に注目してみよう。

     まず、生産工程が大企業を中心に形成され、自国内部ですべての生産工程を行っていると仮定しよう。この場合、各生産工程を主導する大企業とそれをサポートする中小企業の調整コストは比較的少なくてすむ。しかし、国内においても各生産工程部門間のコストや付加価値(あるいは利益率)は異なる。

     ここで、何らかの経済環境の変化が起こったとしよう。たとえば、プラザ合意で経験したような、為替レートの切り上げにより生産コスト調整を迫られるような状況になった場合、あるいは、部門間の調整コストを低くできるような技術革新(たとえば情報通信革命やモジュール型生産様式の構築)が起こったとしよう。このような生産コストの調整圧力や技術革新は、労働コストが高く利益率が低い組立工程部門を途上国に移転すること促進する。また、仮に、先進国が部品を輸出し、それを用いて途上国が組み立てて、最終財(消費財)として、再度、先進国へ輸出する場合に、先進国と途上国の間で関税や税金の軽減や免除があるならば、組立行程の海外移転が促進される。

     どのような理由であれ、生産工程が国際的に分散されると、大企業の海外進出行動に引っ張られて、中小企業も海外進出が促される。とりわけアジア諸国間では、企業内部の生産行程が国際的分散するととともに、信頼関係の強い企業間のバリューチェーンが形成され、バリューチェーンの重層的集合体としての生産ネットワークが形成されるようになる。このように、生産工程が国際間で分担され、その関係が網目のように張りめぐらされると、これまで主に国内でしか取引されなかった中間投入財がアジア域内で取引され、なかでも部品貿易が急速に拡大するようになる。

     同時に、生産ネットワークがある程度形成されるようになると、アジア域外の企業が、そのネットワークを利用して、生産を外部委託しようとする行動を促進するようになる。代表的な事例がアメリカのIT企業のアップル社や小売り大手のウォルマートである。これらに企業行動の背景には、株主価値最大化のなかで、固定費用を可能な限り引き下げる行動として、既存生産設備の売却と生産の外部委託がある。さらに、このような外部委託は、他の企業が持ちえない中核となる能力(コアコンペタンス)の選択として、研究開発やマーケティングに投資を集中させる行動を伴っている。

     ここに、アジア域内の分散した生産工程を結びつけ、ネットワークを支える経済活動として中間投入に必要な部品貿易が拡大するとともに、日本をはじめ、アメリカやヨーロッパのブランド企業(ソニー、アップル、ノキアなど)が、生産ネットワークで生産された最終財を調達・販売するための最終財の貿易が現れる。

     また、部品と消費財の貿易というように、産業内貿易における異なる財の国際間の一方向の貿易とともに、同じ財が双方向に貿易される双方向貿易が拡大している。個々の商品のバリューチェーンから見れば、それぞれの生産工程が国際的に分散されており、貿易の流れはバリューチェーンの過程に沿った一方向ものでしかない。しかし、商品を集計した産業という単位から、多数のバリューチェーンの束を集計して2国間の貿易構造をみると、双方向貿易がみられる。

     双方向貿易には、品質の同じ財が双方向に貿易される水平的産業内貿易と、品質の異なる同じ財が双方向に貿易される垂直的産業内貿易という、2つの区別ができる。とりわけ、後者の垂直的産業内貿易が拡大している傾向が見られる。なぜならば、途上国に組立行程ばかりか、部品の生産工程も定着し、先進国と途上国の間で、技術差や熟練の差に応じて、同じ財の生産の棲み分けが行われるようになることから、同じ財でも品質の異なる双方向貿易がしだいに拡大してくるのである。
第6章のQuestionとAnswer

第6章:Question

  • 【1】
    Fortune(和訳『フォーチュン』)毎年7月号に掲載されている世界企業ランキングと、IMF, International Financial Statistics Yearbookなどに掲載されている各国GDP(国内総生産)を一覧表にして、世界の代表的な多国籍企業と国家の生産額を比較してみよう。
  • 【2】
    1979年に中国が対外開放政策に転換して以来、日本から大量の直接投資が中国に流出している。自動車、電機・電子、繊維など、関心のある産業を取り上げて、この理由を理論的に考察してみよう。
  • 【3】
    発展途上国の貧困問題や開発問題に対して、国際的合併買収はどのようなメリット、デメリットをもたらすだろうか。とくに、民営化や市場経済への移行とかかわらせて考察してみよう。

第6章:Answer

  • 【1】
     多国籍企業が今日急速にその規模を拡大しつつあることは周知の事実であり、世界経済に占める多国籍企業の比率は確実に上昇しているということができる。しかし、この「比率」を正確に計測することは、それほど容易なことではない。設問にある『フォーチュン』誌では、伝統的に多国籍企業の売上高をとっているが、売上高は中間原材料費を含んでいるので、本来的には国のGDPと比較することができない。しかし、参考文献に挙げたWorld Investment Report、2002年版90ページでは、はじめてこれを付加価値ベースで比較する試みを行っている。また、World Investment Report各年版では、非金融・金融多国籍企業の100位までのランキングが、資産、売上高、雇用、子会社数で比較できるので、たいへん便利である。
  • 【2】
     近年、世界の直接投資流入額の1、2位を争う中国の動向を占うためにも、ダニングの折衷理論はわかりやすい手がかりを提供してくれている。地域にもよるが、これまで日本の賃金水準の数十分の1程度といわれてきた中国の低賃金を指向する直接投資が圧倒的多数を占めてきた。しかし最近ではむしろ、爆発的に拡大する国内市場をめざした投資が急激に拡大している。自動車産業はその典型ということができるだろう。優れた自動車生産技術とマーケティング手法を持つアメリカ、日本、ドイツなど、世界の名だたる主要自動車メーカーはほとんど中国進出を果たしている。これに対して電機・電子産業の対中国進出は、南の広東省周辺地域に展開する産業クラスターの集積利益――関連産業が限定された地域に集積することによって生ずる生産性アップ、取引コスト削減の経済性――をめざすものである。これに対して、繊維産業の対中国進出は現地の低賃金を利用することを目的とするものであり、近年では停滞傾向にある。このような低賃金指向型直接投資は、中国の賃金水準の急激な上昇に伴って、徐々に導入する技術水準の高度化を求められる状況にある。
  • 【3】
     発展途上国では、いまだに株式や債券を取り扱う資本市場が十分に発達していないため、合併買収を通ずる直接投資のかなりの部分は、国営・国有企業の民営化がらみの投資が占めることになる。しかもこの民営化は、通貨危機、経済危機の後に政府債務を削減する目的で取り組まれることが多い。たとえば、1994年のメキシコ通貨危機、1997-1998年のアジア通貨・経済危機後の韓国、タイ、インドネシアが典型的である。たしかに、多国籍企業の進出によって、優れた経営手法や市場経済の活性化がもたらされることは一概に否定できない、グリーンフィールド投資と違って新たな生産設備がこれによって途上国にもたらされるわけではないことに注意する必要がある。要は、多国籍企業の進出を発展途上国独自の経済発展戦略の起爆剤としてどのように活用するかが問われているのである。
第7章のQuestionとAnswer

第7章:Question

  • 【1】
    世界の3大金融市場の特徴を整理しよう。とくに東京市場の役割がどのように変化したか,その背景は何かを考えてみよう。
  • 【2】
    デリバティブとはどういうものか,なぜ誕生したか,どのようにして拡大したか,考えてみよう。
  • 【3】
    1990年代以降の国際金融危機の特徴を整理してみよう。

第7章:Answer

  • 【1】
    本章7.7節b項「国際金融市場」をていねいに読んでください。
  • 【2】
    本章7.2節「金融グローバリゼーションとデリバティブ」のa~c項を,ていねいに読んでください。
  • 【3】
    7.3節b項では,1990年代の出来事をはしおり,2007年以降のサブプライム問題を追加しましたので,前版(Ver.4)で書いたことをここに再録しておきます


  • 3-2 1990年代における国際金融危機
     1990年代には金融グローバリゼーションを背景に,国際金融危機が頻発するようになった。そのいくつかを取り上げてみよう。

    【1992年ポンドのEMSからの離脱】
     ドイツ統一にともなう巨額の出費によるインフレ高進に対処するため,ブンデスバンクは短期金利を引き上げたので,イギリスやイタリアは資本流出の危機にさらされた。ヘッジファンドの雄として名を馳せることになったジョージ・ソロスは9月16日,ポンド相場の維持不可能を見越して100億ドルのポンドを空売りし60億ドルのマルクを買う。イングランド銀行は公定歩合を15%にまで引き上げ,150~200億ポンドを市場に投入して必死の抵抗を試みたが,完敗,EMSから離脱した。ソロスはポンド切り下げ後,上昇が見込まれる英国株を5億ドル買い,マルク上昇後,金利の低下から値上がりが見込まれるドイツの債権を購入し,ドイツの株を空売りした。ソロスはたった1晩のうちにポンド投機で10億ドル,他の投資を含めると20億ドル稼いだという。世界でもっとも洗練された金融制度・政策をもつイギリスが新興ヘッジファンドの攻撃に敗れたことは,金融グローバリゼーションを象徴する出来事であった。

    【メキシコ危機】
     1994年末に,インフレの沈静,財政赤字の縮小,ただ経常赤字は拡大を続けるという状況でペソは投機攻撃にさらされた。次の背景があった。1980年代にはメキシコの対外債務の大半は民間銀行に対するものであったが,89年ブレイディ新債務戦略によって国有企業の民営化が進み,発行された株式が米国預託証券(ADR)として一般投資家や年金基金など機関投資家の投資対象に成長していた。また銀行債務の大半は償還のみペソ建てのメキシコ国債に置き換えられ,固定相場とあいまってアメリカ投資家にとってリターンの大きい投資対象となっていた。投機が始まり,ペソ切り下げの可能性が強まると,外国からの証券投資の逃げ足は速かった。95年1月末,アメリカは178億ドルのIMF融資を含む史上最大の総額528億ドルもの支援策を発表した。アルゼンチンを例外として伝染は食い止められた。エマージング市場への証券投資はきわめて不安定であるが,IMFなど国際金融機関が迅速に行動すれば,初期段階で被害の拡大を抑制できる,との教訓を残した。

    【アジア危機】
     1997年タイに始まるアジア通貨危機も,上の例と同じように,2つの投資対象の価格形成に非合理性があるとき,理論値よりも高い金融商品を売り,安い商品を買うという裁定取引をおこなって利ざやを稼ぐ投機で始まった。1ドル25バ-ツから30バ-ツへの下落というバーツ安のシナリオを予想し,3カ月後の決済時点に1ドル25バーツ近傍でバーツを売り,ドルを買う先物予約をする。バーツ売りを開始すると市場は投機家の思惑に左右され,その思惑が新たな市場トレンドを形成していく。決済時点で30バーツに下落したバーツを現物市場で調達し,安いバーツとドルを交換すれば,莫大な為替差益が得られる。96年末から始まったバーツ売りに防戦するために,タイ中央銀行は97年2月には外貨準備250億ドルしかないのに230億ドルのドル売りバーツ買いの先物為替契約をしていたという。短期資本が流出し外貨準備が払底すると固定相場は維持できなくなり,投機筋が想定したとおりの,自己実現的な為替下落となる。通貨・債券・株式価格の下落にさいして投機で儲けるグループの対極には,損失を被った少なくない投資家や通貨当局,そして経済危機に苦しむ民衆が存在する。

    【ロシア危機】
     1998年ロシア危機の直接の原因は,財政赤字を埋めるための国債を内外銀行が大量に売却したことにあった。彼らはIMFの支援決定以前に海外金融機関からドル資金を調達し,値上がりを見込んでロシア国債を大量に購入していた。だがIMF支援決定後も国債は値上がりをせず,償還期限の来る債務の借換に海外銀行から厳しい条件で追証を求められてドル建て債務の支払い困難が生じ,株と債券の叩き売りに走ったという。LTCMは4億ドル,ソロス・ファンド17億ドル,米系ヘッジファンド17社合計55億ドル,類似の投資をしていた大手商業銀行や投資銀行は60億ドル,の損失を出したという。ロシア国債は流動性が低くヘッジ対象商品がないから,ルーブルの先物によって為替のヘッジを行うのが唯一の方法であったが,最高150%に達した国債金利に目が眩み,核大国ロシアの経済危機にたいしてアメリカやIMFが放置するはずがない,というモラル・ハザードが災いして損失を拡大した。

    ★コラム「ヘッジファンドとLTCM (Long-Term Capital Management)」★
     ヘッジファンドとは,証券取引委員会の規制を回避して自由で機動的な運用を可能にするために,パートナーシップで投資家数を限定した私募型投資信託である。ファンドマネージャが純利益の20%を受取る成功報酬制度をとる。投資戦略の違いによって,①世界経済の変化や各国の金利,株価,為替などの動向を読んで投資する「グローバル」「マクロ」,②ファイナンス理論を駆使し,裁定取引を中心に投資する「マーケット・ニュートラル」,③M&Aなど組織改編が進行中の会社株式に焦点を絞る「イベント・ドリブン」,④ファンドもしくはマネジド・アカウントを運用する多数のマネージャーに投資する「ファンド・オブ・ファンド」などに分類される。免許事業でないため,いずれの政府の監督・規制下にも置かれない。多くがオランダ領アンチル,英領ケイマン,英領バージンなどタックスヘイブン諸国(オフショアセンター)に登録されている。
     LTCMは,米証券大手ソロモン・ブラザーズの国債部門の代表を務めたメリウェザーが,米連銀副総裁をつとめたマリンズや,後にノーベル経済学賞を受賞することになるショールズとマートンなどのドリームチームを率いて,1993年10月,コネティカット州グリニッジに誕生させた。イタリア財政赤字削減のための国債発行条件改善の仕事を手始めに,巨額の収益を得ていた。98年ロシア危機表面化の折,バランスシートには1200億ドルの資産が計上され(自己資金の30倍),それ以外に1兆2000億ドルの「簿外」取引を行っていた。このレバレッジの積み上げは複雑を極め,調査に入った同業者にも手がつけられなかったという。LTCMの取引相手は17の大手金融機関に集中していた。ニューヨーク連銀とメリルリンチが取りまとめ役になって奉加帳をまわし,14社がコンソーシアムを組織して合計36億ドルの救済資金を出資することで,破綻を免れた。ヘッジファンドが,少数の大富豪の投資クラブではなく,世界の選りすぐられたトップ銀行とトップ証券会社が共同で資金を提供し,その取引から莫大な利益をあげている,いわば共同の投機組織であることが白日の下に示された。★

     なお,2001年アルゼンチン危機については,毛利良一[2003]「アルゼンチン経済危機とIMF―カレンシーボード制の功罪」『証券経済研究』第43号,9月,pp.45-66,をご参照ください。毛利良一Onlineに収録されています。
     またサブプライムローン危機以降のグローバル経済危機については,章末参考文献にある毛利良一[2010]『アメリカ金融覇権 終りの始まり』新日本出版社,280p,をご参照ください。
第8章のQuestionとAnswer

第8章:Question

  • 【1】
    日本の経常収支、資本収支、外貨準備増減の時系列グラフを作成して、三者の関係を視覚的に確認してみよう。
  • 【2】
    ある国のGDPが500、民間消費が300、民間投資が100、政府税収が80、政府支出が120とする。この国の民間貯蓄と財・サービス収支はいくらか。
  • 【3】
    経常収支の黒字が続くと「黒字が黒字を生む」という状態になる。その理由を考えてみよう。

第8章:Answer

  • 【1】




  • 【2】
    まず、S=Y-T-C式から民間貯蓄を求める。
    式にそれぞれの数値を代入すると、民間貯蓄は120となる。
    次に、X-M=(S-I)+(T-G)式にそれぞれの数値を当てはめると
    財・サービス収支は-20、つまり20の赤字となる。

  • 【3】
    本文で述べたように、経常収支の黒字は資本の純流出を意味する。
    流出した資本は投資収益の受取を増やす。
    投資収益の受取は経常収支の黒字=資本の純流出を増やす、ということになるから。
第9章のQuestionとAnswer

第9章:Question

  • 【1】
    GATT/WTO体制において,途上国の位置づけがどのように変化してきたか説明しなさい。
  • 【2】
    東アジアにおける地域主義の展開過程と問題点を整理し,東アジア共同体の必要性や可能性について考えてみよう。
  • 【3】
    WTOが自由化とは性格の異なる開発の促進と貧困の削減という課題を扱うべきかどうかという問題も含め,「開発に貢献する貿易」を制度化するにはどうすべきか考えてみよう。

第9章:Answer

  • 【1】
     1950~1970年代には,途上国は保護主義的政策をとり国内市場の開放に消極的であったため,相互主義を原則とするGATTの関税交渉に参加することができず,自由貿易体制の外に立ち特別待遇(特別かつ異なる待遇(S&D)を求めていた。そしてS&Dは,GATT第4部「貿易及び開発」が新設され,一般特恵関税制度が創設されることによって制度化された。しかし,これらの措置は,途上国の優遇を先進国の義務にまで高めることができなかった,その利益が一部の途上国に独占されたなどの問題を持っており,途上国の不平等な状況を改善するものとはならなかった。

     1980年代に開発政策が自由化に収斂するに伴い,途上国は「貿易の利益」を獲得することに期待し,ウルグアイ・ラウンドを境に多角的貿易交渉に積極的に参加するようになった。ウルグアイ・ラウンドでは,先進国・途上国の壁を超え,また分野をまたがって譲許の交換が行われて交渉が妥結し,WTO協定が成立した。しかし,ウルグアイ・ラウンドは途上国に極めて不利なものであった。というのは,途上国が期待した農業保護の削減は進まず,その一方で,TRIPS協定やTRIMS協定などによって途上国は大きな義務や負担を負うことになったからである。

     相互主義的交渉に加わらず特別待遇を獲得することは,途上国の発展に十分に貢献するものとはならず,相互主義的交渉の結果は途上国にとって不平等な貿易協定であった。WTO加盟国の大部分を占めるようになった途上国による,このような現実に対する批判が原動力となり,2001年から開始されたドーハ開発アジェンダ(DDA)では,ウルグアイ・ラウンドの不平等を是正するとともに,開発を促進し貧困を削減することが中心テーマとされた。

     以上をまとめると,1970年代までは,途上国は自由貿易体制の外にフリーライダーとして立ち,S&Dを獲得することにより世界経済の不平等を改善しようとしたが,1980年代以降は,途上国が自由貿易体制内化されたうえで,相互主義的交渉を通じて「貿易の利益」を拡大し,さらに分配的正義を実現することがWTOの課題となっている。
  • 【2】
     1980年代後半の円高を契機に,多国籍企業は東アジアに積極的に投資を行うようになった。その結果,工程間分業のネットワークが形成され,貿易,投資の域内比率が高まり,東アジアは事実上の地域経済圏としての内実を備えるようになった。しかし,1990年代までは,制度化された地域経済圏としてはASEAN自由貿易地域(AFTA)が存在するだけで,東アジアは地域主義の空白地帯であった。ところが,2000年代以降,東アジアに通貨・金融協力の枠組みや自由貿易地域が次々に形成されるようになった。その契機となったのは1997/98年のアジア通貨危機である。

     危機に見舞われた諸国は,固定レート制である事実上のあるいは制度上のドル・ペッグ制を採用しており,投資家は為替リスクを心配する必要はなかった。為替リスクから自由な状態で,東アジアの高成長が持続することを期待して流入した外国通貨建て短期資本の急激な流出が,通貨のミスマッチと期間のミスマッチ(ダブル・ミスマッチ)を引き起こし,甚大な経済危機をもたらした。そして,国際通貨基金(IMF)が通貨危機国に緊縮財政と金融引締めという誤ったコンディショナリティを強制したことが,危機をさらに深刻なものにした。このような経験から,様々な地域協力の枠組みが東アジアに形成された。

    (1)チェンマイ・イニシアティブ
     日本は1997年に,参加国が拠出した資金を外貨不足に陥った国に融資する目的で,アジア通貨基金(AMF)を創設することを提案するとともに,1998年には「新宮沢構想」により危機国に300億ドルの資金援助を行った。AMFはアメリカとIMFの強い反対で挫折するが,危機国支援構想は2000年にチェンマイ・イニシアティブ(CMI)として実現した。CMIは通貨危機に陥った国に短期流動性を供与するための2国間スワップ協定の枠組みで,危機管理のためのものある。これと並んで,モラルハザードを防ぎ,危機を事前に防止するために,政策対話を通じて域内各国の経済状況を監視する地域経済サーベイランスの枠組みとして,経済レヴュー・政策対話(ERPD)が創設された。CMIとERPDと一体のものと位置付けられている。

     2009年にはCMIと地域経済サーベイランスは次のように強化された。①CMIの規模が800億ドルから1200億ドルに拡大され,日中韓が80%(日本32%,中国(香港を含む)32%,韓国16%),ASEANが20%を負担することになった。②従来の2国間協定には,危機に陥った国が各国と個別に支援交渉をしなければならず機動性に欠ける,国ごとに外貨を取り崩す期間や手続きなどが違うなど問題があった。そこでチェンマイ・イニシアティブのマルチ化が図られた(CMIM)。すなわち,2国間協定の内容を統一し,支援時に関係国が集まり統一的意思決定を行うことが合意された。③域内の経済や為替,金融を監視する目的で,独立した「地域サーベイランス・ユニット」を設立することに合意した。

    (2)アジア債券市場
     外国通貨建て短期資本に依存したことがアジア諸国にダブル・ミスマッチをもたらした。これを回避するには,アジアの貯蓄をアジア現地通貨建ての長期資金としてアジアの投資に向けるようにする必要がある。そのためのスキームがアジア債券市場である。アジア債券市場の育成は,財務省によるアジア債券市場育成イニシアチブ(ABMI)と中央銀行によるアジアボンド・ファンド(ABF)を両輪として進められている。

     ABMIは2003年に開始され,債券発行主体と発行債券の拡大(証券化や信用保証,国際機関による現地通貨建て債券発行の促進,通貨バスケット建て債券の導入など),債券市場育成のための環境整備(格付け機関機関の育成など)を目的としたものである。

     ABFは東アジア・オセアニア中央銀行役員会議(EMEAP)加盟11カ国・地域(オーストラリア,中国,香港,インドネシア,日本,韓国,マレーシア,ニュージーランド,フィリピン,シンガポール,タイ)の中央銀行が,外貨準備をアジア債券投資に振り向けるスキームであり,ABF1(2003年発表)とABF2(2004年発表)に分かれる。ABF1は10億ドルの規模で,EMEAP11カ国・地域のうちオーストラリア,日本,ニュージーランドを除く8カ国・地域の政府・政府機関が発行したドル建て債券を投資対象とする。ABF2は同じく8カ国・地域の政府・政府機関が発行した現地通貨建て建て債券に投資するものである。

    (3)為替政策・制度
     通貨危機後,ドル・ペッグ制には次のような問題があることが認識されるようになった。①1995年以降の円安・ドル高期にはアジア通貨の実効為替レートの増価をもたらし輸出競争力を低下させる。②為替リスクから自由であるため,短期外国資本の過剰な流入をもたらす。③インフレ率が高くなると,通貨価値の低下を予想した投機攻撃にさらされやすい。

     また,金融政策の自律性,為替レートの安定,資本移動の自由の三者を同時に達成することはできないという「国際金融のトリレンマ論」によれば,資本移動が自由である世界では,通貨危機を避けるためには完全な固定レート制かフリー・フロートのどちらかを採用すべきだということになる(「二極の解」)。そのうち,固定レート制には上記の問題があるとすれば,フリー・フロートが唯一の選択肢であると思われる。

     しかし,通貨危機時には多くのアジア諸国はドル・ペッグを離れ,大幅な為替下落を許すフロート制に一時的に移ったけれども,危機終息後は,フリー・フロートではなく,より安定的な為替レートを目指す管理フロートを採用している。それは,国内金融市場が未成熟で為替リスクのヘッジができない状況ではフリー・フロートを採用することはできないからである。

     また,貿易・投資の相互依存が深まっている東アジアの現状では,域内為替レートの安定化を図ることが望ましく,そのための方策として2つのものが考えられる。1つは,アジア諸通貨を互いにくぎ付けにするアジア版ERMである。もう1つは,共通の通貨バスケットにペッグする方法である。この場合,バスケットの中身を主要通貨(ドル,ユーロ,円,ポンド)にするか,ASEAN通貨にするか,という問題がある。通貨バスケットに関しては,アジア通貨単位(AMU)とAMU乖離指標は経済産業研究所によって公表されているが,実際に適用されるには至っていない。

    (4)自由貿易協定,経済連携協定
     アメリカに依存しない東アジア独自の枠組みをつくる必要性の認識は,日本の通商政策の転換をもたらした。従来日本は無差別・多角主義を基本とし地域主義とは一線を画していたが,1999年より地域主義を認知するようになり,2002年にはシンガポールと,2004年にはメキシコと経済連携協定(EPA)を締結した。そして,日本の政策転換を機に,日本,韓国,中国,ASEANなどとの間で,自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)がドミノ的に広がった。これに対してアメリカは,東アジアでアメリカ抜きの自由貿易地域が成立すると,アメリカの権益が損なわれることを懸念して,2002年にシンガポールとFTAを締結し,ASEANイニシアティブを打ち出した。また2006年にはアジア太平洋自由貿易地域(FTAAP)構想を発表し2007年には韓国とFTAを締結した。

     東アジア地域主義の問題点として,次のことが挙げられる。第1に,FTAやEPAが錯綜した状態はスパゲッティ・ボウル現象をもたらすが,錯綜する2国・地域間協定を1つの地域協定にまとめ東アジア自由貿易地域を形成することは難しい。第2に,東アジアでは域内貿易比率は高まっているが,最終財の域内輸出比率は低く,最終財需要の多くを欧米に依存しているため,東アジアは欧米の景気の動向に大きく左右される。

     以上のように,東アジアでは様々な地域協力の枠組みや自由貿易地域が形成されてきたが,東アジア共同体の形成となると,次のようにいわれる。EUと比較して東アジアは,経済発展水準の格差が大きい,政治体制上の大きな違いがある,共通の価値観や文化的基盤がないなどの問題を抱えているので,共同体を形成することは難しい。

     このことと並んで,EUと東アジアの大きな違いの1つは,EUが出発点から超国家機関を形成して,各国の権限の一部をそれに移譲することを通じて共同体を形成していったのに対して,東アジアの場合は地域協力や2国・地域間のFTA・EPAの束にとどまっていることである。欧州統合の出生証明といわれる「シューマン宣言」は,フランスとドイツの石炭と鉄鋼を共通の最高機関の管理下に置くことを提案し,欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が設立された。これを出発点として欧州統合は,関税同盟,共通農業政策,域内市場統合,経済・通貨同盟へと進んでいった。EUは各国の経済的主権を超国家機関へ移譲することにより,統合を深化させてきた。

     東アジア共同体(East Asian community)構想は東アジア・ビジョン・グループ(EAVG)の2001年の報告,Towards an East Asian Economic Community: Region of Peace, Prosperity, and Progressで初めて打ち出された。同報告では共通通貨地域(common currency area)について述べられているが,超国家機関の形成という観点はないといってよい。通貨危機以降,東アジアにおける事実上の経済統合は様々な形で制度化された。しかし,それは地域協力や2国・地域間のFTA・EPAの束にとどまっている。地域協力や2国・地域間のFTA・EPAの束としての東アジアにおける経済統合を,EUとは異なるどのようなやり方で共同体といえるものへと形成していくかが東アジアの課題である。超国家機関をつくることを通じてではなく,機能的統合を積み重ねることによって共同体を形成しようとしているところに,東アジアにおける経済統合の実験の意義あるといえるであろう。
  • 【3】
     1970年代までは,途上国は相互主義に基づく関税交渉に参加しえず,フリーライダーとして自由貿易体制の外に立っていたことは,次のように言い換えることができる。途上国は,他国の交渉の成果が最恵国待遇の原則により適用されることによる利益と,特別待遇をあてがわれることと引き換えに,貿易交渉には口を挟まず交渉は主として先進国間で行われ,先進国は妥協を重ねて交渉を妥結させていた。

     ところが,1980年代を境に途上国の姿勢は変化し,途上国はウルグアイ・ラウンドに途積極的に参加し,相互主義に基づく譲許の交換を行うようになった。そうなると,交渉は複雑化し妥結により多くの時間を要するだけでなく,交渉の成果が途上国の開発に資するものであるかどうかが問われるようになる。しかし,ウルグアイ・ラウンドの結果は,実効性のない利益と交換に途上国に多大は負担を負わせる不平等なものであり,その是正を求める声が途上国から巻き起こった。ジュビリー2000や世界市民フォーラムの運動が展開され,国連ミレニアム・サミットやヨハネスブルク・サミットが開催されて,持続可能な開発,貧困撲滅・債務帳消しの必要性が叫ばれている中で「ドーハ閣僚宣言」が採択されたことは,WTOが「開発に貢献する貿易」を制度化する必要性を認識したことの遅ればせの表明である。

     以上の経緯を見るならば,「開発の促進と貧困の削減」が多角的貿易交渉の中心テーマに据えられたことは,途上国が自由貿易体制内化された「グローバリゼーションとしての現在」において当然であり,ドーハ開発アジェンダ(DDA)が,2010年現在においても妥結していない理由を,自由化とは性格を異にする問題を課題に据えたことに求めるのは,時代認識として不十分であろう。

     DDAでは,農産物の市場アクセス,農業の国内支持,非農産品市場アクセスの3分野や,途上国が自国農業を保護するために発動する特別セーフガードの発動基準などが争点となっており,交渉は妥結していない。しかし,より重要な問題はDDAの内容が「貿易の開発の次元」を制度化するものになっているかどうかである。そのために必要なこととして,本章では次の5点を挙げた。①大半が農産物輸入国であり,先進国の農業自由化により短期的には不利益を被る後発開発途上国に配慮すること。②タリフ・ピークやタリフ・エスカレーションを是正する必要。③先進国より途上国の関税削減率を大きくするスイス・フォーミュラの見直し。④途上国に関心の高い「人の移動によるサービスの提供(第4モード)」について交渉を進める必要。⑤Aid for Trade(貿易のための援助)を充実すること。開発を促進し貧困を削減するために貿易が果たすべき役割として,これ以外にどのようなことがあるか,章末の文献などを参考にして読者自身考えてほしい。
第10章のQuestionとAnswer

第10章:Question

  • 【1】
    国際通貨体制とは何か?
  • 【2】
    赤字国、黒字国が採用するべき調整政策とは何か? 固定レート制と変動レート制の違いを考慮して説明しなさい。
  • 【3】
    為替レートの変動は、常に、各国の調整にとって望ましい水準や方向にあるか? そうでない場合、政府に何ができるか?
  • 【4】
    北海道や沖縄は、なぜ独自の通貨を発行しないのか? なぜ世界通貨やアジア通貨は存在しないのか?
  • 【5】
    現在の国際通貨制度が持つ問題点と、改革の可能性を考察しなさい。

第10章:Answer

  • 【1】
     「国際通貨体制とは、国境を超える取引の支払いや債務の決済について、確立された慣習・制度・ルールなどを、国内の社会・政治秩序が支持し、互いに合意したものである。国際収支不均衡の拡大を放置すれば、国際貿易や国際投資はできなくなる。不均衡を円滑に調整するためには、それに見合った各国の調整過程が政治的に支持されなければならない。」

    以下の解答と追加の議論を参照。
  • 【2】
     「国際収支の不均衡を調整する政策には、支出転換政策と支出削減(拡大)政策とがある。固定レート制では、調整のために、赤字国の切下げ、黒字国の切上げが求められる。他方、変動レート制は、為替レートの決定を外国為替市場の需給に委ねているから、市場が機能する限り、特別な調整政策は必要ない。」

     しかし、為替レートだけで調整できない点にも注意しなければならない。インフレ率や金融政策の違いがあれば、また、貿易への非対称的ショックや地震などの影響があれば、マクロ経済の条件から対外不均衡は避けられず、為替レートによる調整は失敗する。むしろ、為替レートを固定したまま、インフレ抑制や生産性の改善に努めること、あるいは、一時的に融資や援助を受ける(調整を延期する)ことも考えられる。
     戦後の歴史から、本文では固定レートを先に説明したが、現状から、国内マクロ管理を前提する場合は、次のように答えるほうがよいだろう。

     「固定レート制で、政策として為替レートの変更を行わない場合、国内の支出水準を変える赤字国の支出削減(デフレ)政策と黒字国の支出拡大(インフレ)政策が採られる。大幅な不均衡を調整するには(各国の支出水準だけでなく、その方向を転換するため)、赤字国が為替レートを切り下げ、黒字国は切り上げる。変動レート制では、外国為替市場の需給を反映して為替レートが増価もしくは減価し、調整を促す。」

    以下の解答と追加の議論を参照。
  • 【3】
     「資本取引が自由化され、国際資本移動が増えるに従って、各国資本市場の変動が為替レートを動かし、国際収支不均衡に影響するようになった。各国は国内の社会的合意や政治目標に照らして、望ましい為替レートの水準や調整過程を考える。市場がそれから明白に外れた場合、政府・通貨当局が外国為替市場に介入し、あるいは、金融政策を変更する。」

     ただし、介入は必ずしも効果がなく、望ましい結果をもたらさない。特に、単独で介入しても、主要国の政策が矛盾している場合、為替レートの乱高下につながる危険を強める。協調介入が望ましいが、そのためには国際金融危機の回避や共通の安全保障問題のような強い政治的関与が必要だ。(政府から独立した中央銀行が決める)金融政策を、国内のマクロ管理から矛盾した形で、政府が国際収支不均衡の調整や国際政策協調の目標に利用することも難しい。
     政府には何もできない、不均衡や市場の示す為替レートを受け入れるしかない、と言うのも間違いだ。それを認める政府もない(不介入の姿勢を採用し、変動レートによる調整を優先することはある)。
     実際、市場が大幅に不均衡を拡大している、あるは、為替レートの水準や変動が国内目標を妨げている、と主要国が判断した場合、そのような公式の意見表明や協調介入が行われるし、国際的に合意されたルールが効果的に機能する。政府は市場を監視し、望ましい調整過程を支援するとともに、政策に関する情報や意見の交換を積極的に行っている。
  • 【4】
     「歴史的に見て、独自通貨を発行するのは国家の独占的な権限(主権の一部)とされてきた。その意味では、北海道や沖縄、アジア全域が独自通貨を発行することはない。しかし、ユーロが成立したように、最適通貨圏の示す基準と政府間の合意により、共通通貨が実現する可能性はある。すなわち、要素移動(投資や労働力移動)と財政的移転が十分に行われず、また、共通の為替レートや金利を採用できる条件(インフレ率、景気循環、貿易パターン、産業構造)が失われれば、独自通貨の選択肢も。現在は、そうした基準で独自通貨を選択する条件がない。」

     北海道や沖縄には、財政的な移転や円建て取引を失った場合、地域経済の自立と生活水準の改善を期待できないから、独自通貨を発行しないだろう。逆に、たとえば、台湾や中国との取引が増せば、その判断も変わる可能性がある。日本の経済停滞や金融危機、安全保障政策の混乱が深まれば、円圏にとどまるメリットも減少する。
     世界単一通貨やアジアの共通通貨も、今はその条件がないとしても、決して成立しえない、と断言することはできない。強大な帝国とその従属国が大陸規模で単一通貨を採用する可能性や、情報通信技術の発達が電子取引・決済の利便性と規模を飛躍的に増大させる可能性はある。また、主要国が国内の政治目標や政策運営において基本的な合意に達することもあり得る。
     世界的な貿易と投資が増え、市場統合を深めるにつれて、為替レートによる調整過程は社会秩序の安定性や政治的合意と矛盾する可能性があり、ヨーロッパが共通通貨を実現したことで、地域通貨統合の可能性は真剣に検討されるようになった。
  • 【5】
     問題点:「現在の国際通貨制度は、主要国のマクロ管理政策と国際資本取引の自由を重視しており、為替レートの安定性を犠牲にしている。しかし、為替レートの水準は各国のマクロ管理に必要な水準から大きく乖離することがある。また、開放度の高い、外国市場への依存が強い輸出部門に成長や雇用を依存する国では、為替レートの変動があまりに頻繁で大きくなると、不均衡の調整過程に政府が耐えられない。実際、大規模な国際資本移動が起きた1990年代になって、通貨危機が繰り返されてきた。」

     改革の可能性としては、特に、基礎的均衡為替レートと目標相場圏、IMFと融資条件、トリレンマから二極化と中間的選択肢、債券市場の整備・育成と資本規制のルール、アメリカの覇権・国際通貨ドルの衰退とSDR、人民元やアジア通貨の為替レート調整、共通通貨、などを考察してほしい。
     それぞれの詳しい考察は、本文と参考文献を見ること。
第11章のQuestionとAnswer

第11章:Question

  • 【1】
    貧困という概念や、貧困の測定方法が、それぞれどのように移り変わってきたのかについて、整理してみよう。
  • 【2】
    開発の思想と実践も、時代とともに移り変わってきた。なぜ、どのように移り変わってきたのかについて、貧困概念の変遷をふまえつつ、整理してみよう。
  • 【3】
    PRSPの問題点や限界を考えてみよう。

第11章:Answer

  • 【1】
     この問題は、11.1節、および11.3節のaとcに記述されている。貧困は、当初は「物質的欠如」としてとらえられ、主に1人当たり所得によって測定されてきた。また、その具体的な程度を示すために、絶対的貧困や相対的貧困という概念が発達してきた。こうした集合的指標によるとらえ方には、それなりに利便性があり、不必要になったわけではない。

     しかしセンのケイパビリティ・アプローチは、貧困を財の量ではなく、「潜在能力の欠如」としてとらえている。貧困をこのようにとらえた場合の測定は、「物質的欠如」の場合ほどには簡単ではない。どのように潜在能力が欠如しているのかは、個人の置かれた実に多様な状況によって異なるからだ。ただそうは言っても、何らかの指標は必要だろう。人間開発指数(HDI)は、いくつかの指標をベースに「潜在能力の欠如」を測定しようとする具体的な試みである。

     また、参加型貧困評価(PPA)も、貧困概念の深化に大きな役割を果たしてきた。こうした結果、貧困という概念は、所得水準から、余命や識字率、さらに近年は無気力や脆弱性、自由の欠如などを包括したものへと拡張されてきた、といえよう。
  • 【2】
     この問題は、11.2節、および11.3節のbとdとeに記述されている。開発は当初、経済成長を通じた1人当たり所得の増大と考えられ、これを達成するために、工業化が要請された。輸入代替工業化(ISI)は、工業製品の生産・輸出国ではない途上国が、いかにして工業国になるかという切実な課題をうけて出てきた開発戦略だが、展開過程でさまざまな問題が生じるなかで、輸出志向工業化(EOI)の優位性が強調されるようになった。

     他方で、別の問題も浮かび上がってきた。経済成長を通じた1人当たり所得の増大で貧困が削減されるとは限らない(場合によっては悪化する場合さえある)という問題である。そこで経済成長の追求と平行して、貧困層に直接届くよう的を絞り、貧困層の生活状況を直接改善するための開発戦略も重視されるようになった。古くは改良主義が、また最近では債務救済や、貧困削減を前面に押し出したPRSPがこれに該当する。その際、単に慈善的に財・サービスの充実を図るのではなく、貧困当事者の自立能力を強化することが必要だと考えられるようになっている。フェアトレードやマイクロクレジットも、当事者の自助努力を、市民が支える開発戦略の1つとみなされよう。

     さらに近年は、脆弱国家や内戦という問題をうけて、復興支援・平和構築という形での開発の実践も進められている。
  • 【3】
     この問題は、11.3節のbの応用問題であり、11.3節のeを踏まえてほしい。
     PRSPの問題点のひとつは、脆弱国家という開発の難題との相性が良くないことである。政府の能力の低い国では、実のところPRSPの策定さえ困難である。しかしPRSPを策定しない(できない)と、拡大HIPCイニシアティブを適用してもらうこともままならないし、場合によっては、先進国や国際開発機関から資金提供を受けることも難しくなる。つまり、支援のニーズは大きいはずなのに、PRSPを策定できないがゆえに支援を受けにくく(受けられなく)なってしまう、という問題が考えられる。

     また別の問題点として、社会開発に傾斜しすぎており、経済成長がやや軽視されていることも挙げられる。経済成長だけで問題が解決するわけではないが、経済成長なくして貧困を削減することは難しい。そもそも所得は、ケイパビリティを拡大する重要な手段である。
第12章のQuestionとAnswer

第12章:Question

  • 【1】
    一次産品価格は、どうして不安定化するのか。工業製品に比べて、価格的に不利になるのはなぜか。
  • 【2】
    世界の農産物貿易構造は、1960~70年代から現在までに、どのように変わったか。穀物貿易の重要性は、低下したといえるか。
  • 【3】
    以下の見解について、議論してみよう。
    「多くの小国では、天然資源や地理的条件などに恵まれないため、エネルギーや食料の自給はそもそも不可能である。したがって、各国が比較優位を持つ輸出品の生産に特化し、不足するエネルギーや食料は国際市場から調達することが、貿易利益を最大化し、人々の消費水準を高めるために最善の方法である」

第12章:Answer

  • 【1】
    一次産品価格の不安定性と不利化の原因

     まず思いつくのは、国際資本市場における投機行為が著しい価格変動をもたらす可能性である。とくに国際的な先物市場が存在する場合、短期的な価格上昇や下落を予想して売買が集中し、急激な価格の乱高下をもたらすことがある。

     しかし、より構造的な問題として、一次産品における需給調整の困難を指摘するべきであろう。たとえば、天然ゴムや茶といった農産物は、生産拡大の意思決定から収穫が得られるまで数年を要することから、需要過剰でもすぐには供給が拡大せず、十分な供給能力が生じた時点では供給過剰に陥る、といった悪循環が生じることが多い。また、近年の国際コーヒー市場に見られるように、ベトナムやブラジルといった主要生産国の増産によって、供給過剰の構造が定着してしまっている場合もある。こうした事態を防ぐための、生産国機構の結成と協力や、価格安定化機能を持つ国際商品協定の締結の困難性については、本章で論じたとおりである。他方、需要面については、世界全体の経済成長のテンポに加えて、天然ゴムに対する合成ゴム、石油に対する原子力、砂糖に対する異性化糖(とうもろこし化工により製造される)など、代替製品が工業的に開発されたために需要の伸びが鈍化したことも考慮すべきであろう。

     いまひとつ見落としてはならない要因として、一次産品と工業製品との需要の価格弾力性の相異があげられる。これについては、第11章を参照して読者に考えていただきたい(ヒント:シンガー=プレビッシュ命題)。
  • 【2】
    世界農産物貿易の構造変化と穀物貿易の重要性

     表12-1を参照のうえ、いまいちど考えてみよう。基本的傾向としては、伝統的輸出農産物貿易の後退と高付加価値農産物貿易の拡大とに要約することができる。前者については本章で論じたとおりであり、とくに1961年に世界農産物輸出の約3割を占めた熱帯産一次産品の構成比は、2000年には8.6%まで低下している。他方、高付加価値農産物について2000年の構成比をみると、野菜・果実およびその加工品が16.4%、食肉および食肉調整品が10.7%と、いずれも熱帯産一次産品や穀物を超える金額に達している。また、大豆および関連品が4.5%、熱帯産植物油が1.5%で、両者を合わせると構成比は6.0%に達しており、有力な輸出産品となってきていることがわかる。

     それでは、穀物貿易の重要性は低下したといえるだろうか。輸出額だけに着目すれば、熱帯産一次産品と同様に輸出構成費は低下してきている。しかし、穀物輸出の寡占的構造を考慮すると、主要輸出国が国際貿易に与える影響は、熱帯産一次産品よりもはるかに大きいであろう。加えて、穀物供給が食料輸入国にとって死活的重要性を持つことは、2008年の食料価格急騰によって生じた各国の社会的動揺に示されたとおりである。このように、国際農産物市場の構造や商品特性も含めて考えた場合、穀物貿易の重要性が低下したと判断するのは早計といわざるをえない。穀物貿易の重要性は国や地域によって異なっており、低下していないばかりか、より重要性を増している国や地域もある。それはどのような国や地域か、さらに考えていただきたい。
  • 【3】
    国際分業への完全特化の是非

     この問いは難問であり、専門研究者の間でも意見の一致をみていない。まず、設問の見解に同意する根拠としては、比較生産費説にもとづいて完全特化を肯定する根強い意見がある。とくに日本に対しては、工業製品の輸出国として農産物輸入の自由化を求める声が強い。緊急時における食料調達の不安を根拠とする一定水準の食料自給論については、①エネルギーをほぼ全面的に輸入に依存しているのに食料のみ自給を確保しても意味がない、②農業生産自体が輸入エネルギーに依存しているからエネルギー輸入が途絶したら食料自給も不可能となる、③そもそも輸入が途絶するような事態が発生しないように努めるべき、との反対論がある。

     こうした議論は、食料自給に固執する危険性を鋭く指摘している反面、食料自給率の低い国が緊急時にどのように食料を確保するのかについては、明確な回答を示すことができていない。また、根本的な問題は購買力であるという論点を考慮すれば、日本はさておき、一次産品輸出に外貨獲得を依存する食料輸入国が輸出産品への特化を強めた場合、2008年の食料価格高騰に伴って生じたような事態が発生する可能性は、一段と高くなると考えざるをえない。

     しかし、今日の国際貿易体制の現実や各国の地理的条件等に鑑みれば、すべての国や地域が食料の完全自給をめざすことは、現実的ではないだろう。すなわち、緊急時の食料確保の問題は、輸入か自給かの二者択一ではなく、貿易に頼る部分と自国で生産する部分とのバランスの問題であり、一国の産業構造の問題なのである。さらに広域的にみれば、二国間協定や多国間協定によって食料供給を確保する方法も考えられる。こうした対応を可能にする条件は、言うまでもなく国や地域の置かれた状況によって異なるであろう。特定の国や地域を想定して、具体的な解決策を考えてみていただきたい。
第13章のQuestionとAnswer

第13章:Question

  • 【1】
    キャップ・アンド・トレード方式の排出権取引制度とはいかなるものかを説明してみよう。
  • 【2】
    京都議定書の現制度が持つ問題点、とくに京都メカニズムが有する意義と限界について調べ、今後の制度枠組みにおいて盛り込まれるべき論点を考えてみよう。
  • 【3】
    発展途上国の開発と貿易の連関が、環境と貿易の連関にどのようにかかわっているかを、一次産品問題など具体的な例を挙げながら説明してみよう。そして、問題の解決にいかなる手段があるかを、皆で議論してみよう。

第13章:Answer

  • 【1】
     キャップアンドトレード方式の排出権取引制度とは、政府(などの権力主体)が何らかの汚染物質(温室効果ガスなど)や資源利用について許可総量を定め、その量に対応する権利証書を発行し、企業はその権利証書を購入することによって、許可総量内で生産を行う仕組みのことである。



     図の状況について二酸化炭素を例に説明しよう。工場Aは与えられた二酸化炭素の排出枠に対して排出量が超過しており、工場Bは逆に排出枠が余っているとする。排出権取引制度が存在すると、経済主体(工場A)は自力で削減するか、それともどこか(工場B)から排出権を購入するかの選択に迫られることになる。その場合、自力削減または取引の「どちらが安価か」が選択の基準となる。経済学的には、各経済主体は汚染物の排出に対して量的な上限が与えられ総汚染量が決定し、そのうえで取引が行われると、取引対象部門全体での排出削減費用が最小になるといわれている。

     現実世界には、米国の二酸化硫黄の排出権取引制度や発展途上国における水利権取引制度といった多くの事例が存在する。しかし、それら実際の制度の形成はきわめて多様なものであり、どのような取引がなされてきたかは慎重に吟味する必要がある。また、主に地域レベルの試みとして展開されてきた排出権取引制度が温室効果ガスと地球温暖化というグローバルなレベルの環境問題に対してはたして有効に機能するのか、大気という「社会的共通資本」(宇沢弘文)をグローバルな市場取引の対象とすることの倫理的問題など、検討すべき課題は残されているといえる。
  • 【2】
     京都議定書は、人類史上初の環境保全の観点から経済活動を国際的に規制することを取り決めた条約であり、その意味でも国際社会が重視すべき枠組みであることは間違いないが、京都議定書の現制度には、はたして温暖化防止という目標に照らして十分効果的な枠組であるのか、より多くの国々(とりわけアメリカ、途上国における大国(中国、インド)といった主要排出国)の参加をどうやって確保するのか、などの問題点もある。

     2009年末にコペンハーゲンで開催されたCOP15での協議を受け、アメリカや中国,インドを含む世界の55カ国が2020年までの温室効果ガス排出減の中期目標を、国連の気候変動枠組み条約事務局に提出した。この55カ国の温室効果ガスの総排出量は世界の78%に相当する。国別では,日本が1990年基準で25%削減,EUが90年比で20~30%削減,京都議定書から離脱していたアメリカは2005年を基準として2020年までに17%削減を目標として提出した。新興国からも中国を含めさまざまな排出抑制計画が提出された(ただし、目標はあくまで自主的なものだと強調されている)。本来であればCOP15においてポスト京都議定書の締結がなされるはずであったが、本章でも強調した地球温暖化対策をめぐる南北対立解消のため、締結には至らなかった。多くの発展途上国が属する非附属書Ⅰ国が温室効果ガスを削減する機会を拡大し、そこで生じる環境コストをどう負担するかが重要な論点となっている。京都メカニズムには、Q1への解答で述べた排出権取引制度をめぐる倫理的問題といった課題もあるが、市場メカニズムを環境保全のための制度設計に導入したという意義がある。京都メカニズムは、発展途上国で生じる環境コストを先進国が負担するCDMのような制度をさらに改善し、世界全体の温室効果ガス削減に寄与するよう再設計される必要があると思われる。加えて、従来のODAを中心とした国際援助政策を環境保全の観点から再検討する作業も重要といえるだろう。
  • 【3】
     『地球買い物白書』(コモンズ、2003年)には、「日本が輸入する製品と環境への影響」として、農産物輸入による農薬や化学肥料による土壌・水質汚染、金属製品輸入による鉱石採掘のための森林破壊、魚介類輸入による養殖に使う抗生物質による水質汚染など多種多様な問題が紹介されている。国際貿易は発展途上国の開発のために欠かせない経済活動だが、その一方で先進国での輸入拡大と貿易の増加に起因する環境問題が明らかになっている。

     たとえば、『エビと日本人』(岩波新書、1988年、新版2007年)というエビ養殖が現地の社会・環境破壊を引き起こしていることをいち早く指摘した研究がある。そこでは、マングローブ林が群生する熱帯・亜熱帯の汽水域は多様な生き物が生息する生物資源の宝庫だが同時に汽水養殖池をつくるのに格好の場所であり、エビ養殖ブームが押し寄せた地域ではマングローブ林が次々と伐採され養殖池へと転換されたこと、集約型養殖は放養密度が高いためにウイルス性の病気発生の危険が高く、池底の土壌の劣化・汚染も急速に進むこと、水田や荒れ地の養殖池への転換が進むと水田を売却した農民は生計手段を失い、養殖に乗り出した農民が以後の生活を国際商品=エビに委ねること(モノカルチャー経済の問題点)が指摘されている。

     エビだけでなく、様々な商品において開発、貿易、環境の間での連関が確認することできる。皆さんそれぞれに調べてみよう。そして、関税や補助金、貿易制限などの政策改革がどのように必要か(必要でないのか)を考えてみよう。また、皆さんの多くはこの問題に消費者として関わるので、消費者サイドからの政策や制度(たとえばエコラベル)について、その有効性と問題点について検討してみることをお薦めしたい。
第14章のQuestionとAnswer

第14章:Question

  • 【1】
    「労働力を呼び寄せたつもりだったが、やって来たのは人間だった」とはどういう意味か、説明してみよう。
  • 【2】
    労働力需要が減少するので外国人労働者に帰国を促し入国を厳しくすると、彼らはどのように反応しただろうか。このケースのどこが「逆説」なのか、考えてみよう。
  • 【3】
    19世紀のグローバリゼーションが一度途絶えたことから、何がわかるだろうか。今日のグローバリゼーションを考察する際にどのようなヒントが得られるのか考えてみよう。

第14章:Answer

  • 【1】
     西ドイツの外国人労働者受け入れ政策は,当初「ローテーション・システム」として構想され,外国人労働者はたとえば2年間の労働の後に帰国し,その後は別の労働者がやってきて短期間で入れ替わっていく想定だった。いわば労働力を時間単位で購入し,必要な時に必要なだけ利用できるはずだったが,彼らは短期間では帰国しようとせず,新規の募集が停止されたり不況で失業したりしても帰国しなかった。労働者個人が経済的要因に反応して行動するだろうという想定が崩れたのだともいえる。その理由は,外国で働くことを決めた事情として賃金以外のものがありうること,ネットワークを介した連鎖移民状況がありうること,再入国が困難になると家族を呼び寄せてかえって定着の傾向を強めうることなどである。総じて個人の状況以上にたとえば家族といった社会的ネットワークのなかで行動する外国人労働者を,労働力商品としての側面でとらえすぎたことで,その行動をとらえることができなかった事情が表現されたものといえる。
  • 【2】
     労働力の新規導入を停止し,帰国のインセンティブをつける政策によっても,新規の労働力流入は減少せず,多くの労働者たちは帰国を選択しなかった。これは,政策目標の想定に反していると見ることができるため、「逆説」といえる。外国人労働者たちは一度国外に出ると再入国が困難になったことから,家族を呼び寄せて定着をはかるようになった。逆に,何度でも容易に再入国できるのであれば,何度でも帰国するという往復行動をとるようになり,定着を避けることができる。定着を避けるには,厳しい締め出し型の政策よりも,場合によってはこちらのほうが有効とさえいいうるのである。
  • 【3】
     グローバリゼーションは不可避であって,一度進展すれば逆転することのない現象だといった類の言説が世間にあふれた。だが,歴史を振り返ることにより,グローバリゼーションがその進展の後に逆転して終息した19世紀から20世紀初頭までの事情を確認できる。ここから,20世紀末から21世紀初頭にかけてのグローバリゼーションを,不可避で,逆転しない現象だと決めつけないほうがよいことがわかる。そのようにグローバリゼーションを自然現象のように見ることは,グローバリゼーションをめぐる論争を脱政治化させる効果をともなう。その意味で,グローバリゼーションの不可避論はグローバリゼーション推進派の議論であることがわかり,グローバリゼーションをめぐる論争から,グローバリゼーションをどう見るべきかについてのヒントも得られたことになる。

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