IFRSはこうなる

田中 弘著
2012年3月23日 発売
定価 1,760円(税込)
ISBN:9784492602133 / サイズ:サイズ:四六判/ページ数:248


読者の皆さんへのメッセージ




「腑に落ちない」

IFRSが、「どこかしっくりこない」とか「どこか腑に落ちない」と感じている方は多いのではないでしょうか。会計や経営をちょっとでもかじった方なら、それが正常な感覚だと思います。ましてや、企業を経営している方々や企業の経理部門の皆さん、そして、会計を専門にされている会計学者や会計士の皆さんにしてみますと、「とんでもないことが進行している」ことに強い恐怖を覚えているのではないでしょうか。



2011年の春頃まで、日本では、「IFRSは受け入れなければならないもの」「IFRS強制適用ありき」といった風潮が支配していました。いつものことですが、世界が、それも日本人が大好きな欧米が決めたことには、従順に従うのです。日本に不利益なことも、です。



自見庄三郎大臣の「政治的な決断」

2011年6月に、金融・郵政改革担当の自見庄三郎国務大臣が、「会計基準の国際的調和そのものが自己目的化し、経済活動が停滞することがあってはなりません」として、これまでIFRS強制適用が既定路線であったかのような印象を与えていたIFRSの適用のあり方について、誤解を正す形で軌道修正し、各界・関係者に「総合的に成熟された議論」を早急に開始することを求めました。



自見大臣の「政治的な決断」(大臣の言葉)に、強い賛意を表したいと思います。

自見大臣は、産業界や学界、労働界などとのつながりが強い方なので、多くの方と意見を交わしているうちに、「IFRS強制適用」「連結先行」が国際情勢を見極めたうえでの「真の国益」に適うものなのか、税法や企業の経済活動に影響を与えることに関して様々な観点から十分に議論と調整がされ尽くされているかどうかについて疑問を持ち、強い違和感を覚えたのではないでしょうか。




「企業解体の儲け」を狙う投資家


IFRSは、「会計基準」ではありません。IFRSは「会計」というよりは、企業をコモディティのごとく売買しようとしている「投資家」に、「わが社の身売り価格」を計算してやるものです。



IFRSが想定している「投資家」は、買収した企業の事業を続ける気はありません。事業を続けて利益を稼ごうといった、まどろっこしいことは考えず、買収した企業の資産・負債をバラバラに切り売りして残る「解体の儲け」を狙っているのです。



その証拠に、IFRSでは資産は売却時価で、負債は即時清算価額(時価)でバランス・シートに載せるのです。これで「この会社の正味資産の売却時価」が分かります。あとは、株価ボードを見て、その会社の時価総額を計算するだけで「買い得」かどうかが分かるのです。



そんな「投資家」は買収する企業の「収益力」などには関心がありません。ですからIFRSでは、いずれ「当期純利益」や「営業利益」の表示を禁止する予定です。



「物づくり」から「金融工学とマジック」へ

原因の1つは、英米が「物づくり」では稼ぐことができなくなったことにあります。英米はいま、「物づくり」から「金融」に軸足を移して、金の力に任せて世界の富を自分のものにしようとしています。そこで使われるのが、国際会計基準という「平和的武器」と金融工学の「マジック」です。




IFRSはどうなるのか


読者の皆さんは、では「IFRSはこれからどうなるのか」とか、「日本はどうしたらいいのか」に強い関心をお持ちだと思います。

本書の書名に「連単分離」と「任意適用」という副題をつけています。最近の企業会計審議会や財界の議論を見ていますと、IFRSを個別財務諸表(単体)に適用するというシナリオは消えてなくなったと考えていいようです。いわゆる「連単分離」です。



2009年6月に企業会計審議会が公表した「中間報告」では、IFRSは「上場企業の連結財務諸表」に先行的に「強制適用」することが想定されていましたが、「すべての上場企業に強制適用」という線も「ありえない話」になったといってよいと思います。



仮に、「強制適用」というシナリオが残るとすれば、日本企業のごくごく一部です。また仮にそのような場合でも導入コスト面からもまたその適用が企業活動に与える影響をよくよく慎重に検討したうえで決定しなければなりません。ほとんどの上場企業は、「IFRSを使いたいところだけが使う」、つまり「任意適用」になると思います。



「信じられない」という方、「そうなったら嬉しい」という方も多いと思います。本書では「なぜそうなるのか」「なぜそうするのか」という背景や理由をたっぷりと書きました。是非、ご一読、いえ、じっくりとお読みください。きっと「腑に落ちる」「そうだったのか」「やっぱりな」という話に出会うと思います。



ご関心の高い章からお読みください

どの章から読んでいただいてもかまいません。この本は、読者の皆さんが最も関心を持つテーマから先に読んでいただいても全体像が分かるようになっています。でも、どこかの章を読まれたら、決まって別の章を読みたくなるように書いたつもりです。


   2012年2月15日       田中 弘

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概要

IFRS(国際会計基準)が、TPP同様、英米主導で恣意的に制度化されてきたのかを明らかにする。また日本はIFRSを強制適用するのではなく、連単分離・任意適用し、「物づくりの会計」を世界に発信すべきと訴える。

目次


第1章 台頭する「IFRS任意適用」論
第2章 「IFRS物語」――これを知らずしてIFRSは語れない!
第3章 暴走するIFRS
第4章 なぜ世界中の会計基準を統一するのか
第5章 「原則主義」で会計ができるか?――限りなく多様化する会計実務
第6章 こんな会計を信用できるか
第7章 IFRSは誰のためのものか――企業を「コモディティ」と見て
    「解体の儲けを狙う投資家」
第8章 日本の国益と産業を左右するIFRS
第9章 IFRSは生き残れるか
第10章 「連単分離」は世界の常識
第11章 「同等性評価」が世界を救う
第12章 日本はいかなる会計を目指すべきか――経営者の実態と社会通念に
    合った会計観を

 

著者プロフィール

田中 弘
たなか ひろし

神奈川大学経済学部教授、博士(商学)(早稲田大学)。 1943年北海道に生まれる。
早稲田大学商学部を卒業。大学院博士課程を修了後、愛知学院大学に奉職、1993年より神奈川大学経済学部教授。
公認会計士2次試験委員、大蔵省保険経理フォローアップ研究会座長、郵政省保険経理研究会座長、金融監督庁保険業早期是正措置検討会委員、ロンドン大学(LSE)客員教授、などを歴任。
現在、英国国立ウェールズ大学経営大学院(東京校)教授、日本生命保険相互会社業務監視委員、ホッカンホールディングス独立委員会委員、神奈川大学中小企業経営経理研究所所長なども務めている。

最近の主な著書に『国際会計基準はどこへ行くのか』(時事通信社、2010年)、『複眼思考の会計学―国際会計基準は誰のものか』(税務経理協会、2011年)、『不思議の国の会計学―アメリカと日本』(税務経理協会、2004年)、『時価会計不況』(新潮新書、2003年)などがある。