- じゃあ、ざっくばらんに始めようか。みんな、『シュードッグ』を読んで、どうだった? 普通のビジネス書と違うところとか。私がまず思ったのは、ずっとフィル・ナイトさんの目線で読み進めていく本だということ。具体的なノウハウが書いてあるわけではなく、彼の過ごした日々のなかから、自分の日々とつながることを自ら汲み取らなくちゃいけない。そんな双方向のコミュニケーションが発生する本なのかなと。
- 普通のビジネス書を読んで、感情を突き動かされることってないと思うんだけど、この本を読んで、心が動くというか、ゾクゾクした。すごくいい映画や音楽に触れたときと同じ。たぶん、自分がやっているプロジェクトが成功したときも、こんな感情を抱くんだろうな、というのがあって、こんな感情を抱けるような生き方をしたいと思った。
- なるほど。
- 私はこれをビジネス書ではなく、自叙伝として読んだ。実は誰かの自叙伝をきちんと読んだことがなかったんだけど、ナリタ君が言ったように、ノンフィクションの長編映画を観ているような感覚があった。そのなかで印象に残ったのは、とにかくあきらめないで前に突き進むというところ。自分の人生も、全部ではないけれど、フィル・ナイトさんのようでありたいと共感するところがすごく多かった。
- 二人とも、ナレッジとかテクニックじゃなくて、彼の人生、感情にも共感して、それを自分の人生で再現したいと。
- そうだね。
- 裁判のシーンも、すごくリアリティがある。「これ、やばいな」という感情が湧きあがってくる。読みながら追体験できるところがすごくいい。
- 一般的なビジネス書って、はやりすたりがあると思う。でもこの本はもっと普遍的な、ビジネスに関わる人すべてに共通するようなコアな部分を教えてくれる。
- 話が1960年代から始まっていて、いまから50年以上前なんだけど、古いと思うところがない。今の僕らがそう感じるということは、普遍的なものがあるから。
- それは起業という選択肢を持つ人にとって、ということかな? それとも、普通のビジネスパーソンにも示唆がある?
- あると思う。こう言うとすごくチープになっちゃうけど、ビジネスは「勝負」だというところ。私は何でも「自分のできる範囲で少しずつやっていけばいい」と思っていたんだけど、違うと。1つ1つのことで負けちゃいけない、そういう強い信念を持つことで見えてくる世界もあるんだとこの本に教えてもらった。ちょっと手におえないな、というタスクを与えられたとき、「これは勝負だ」ってフィルさんが後ろでささやいている気持ちになる(笑)。
- 私もそう。創業から年が過ぎていって、課題が大きくなっていくたびに、「勝負だ」と思って向かっていくところはすごく共感した。
- 僕は、すごく偏ったフィルさんの視点から書かれているからこそ面白いと思った。たとえば、本人は、すごい「馬鹿げたアイディア」を思いついたと言っている。どんなアイデアかと思ったら、その実は、日本企業の販社になること。
- それはたいしたことじゃないだろうと。
- いや、そこに創業者としてのリアリティがある。だから自分もすごく共感できる。後から振り返ったら、そこまでのチャレンジじゃないよね、と他人から思われるようなことでも、当時の自分からしたら、世の中にない、とんでもなく大きなことに挑戦している。そういう気持ちでいることがある。僕自身もそうだった。逆に言うと、そういう気持ちって、起業経験のない人に伝わるのかな、という思いもありながら読んだ。
- 私は、フィルさんが日本とかアジアに傾倒されていて、理解があったからこそビジネスがうまくいったんだな、というところと、彼自身が読書家で、歴史とか哲学の本をたくさん読んでいるのところがすごいと思いました。この本を読んで、世界を見る旅に出たくなったし、ビジネス書でなく、歴史書、哲学書を読みたくなった。
- フィルさんが旅に出た20代前半のころって、自分はこれからどう生きようって本気で考え出す人が多いときだと思う。でも会社に入ったり社会にもまれているうちに、本当にやりたいことを忘れていく人が多いんじゃないかな。
それに対してフィルさんは、最初に自分がやりたいことをはっきり決めて突き進む。ずっとそうしつづけたら、世界一のスポーツシューズのブランドになっている。アクションの連続が彼の成功を作ったように見える。自分の人生に真剣に向き合っていくときには、行動し続けなくちゃいけないんだ。この本は、そういう強いメッセージを送っているように思う。
- 強い意志とか、ゼロからイチを創れる力とか、主体的なキャリアを歩むために必要なノウハウはあるんだけど、それ以前に、自分の人生をどうしていきたいかを突き詰めて考えることが必要だ、ということを教えてくれる本だね。
- それと、日本企業へのエールになってほしい、というのがやはりある。本書でも、最初はあれだけ大きなプレゼンスを発揮していた日本企業が、最終的には、ナイキの日本依存が終了した、というかたちで終わっている。どうしてそうなったのか、一ビジネスパーソンとしては、日本企業が世界で戦ううえで学ぶべきところがどこにあるかという目線でも読んでほしい。
- ナイキをどういう会社にしたいか、というところで、ソニーのような会社、とフィルさんが思っているシーンがありましたよね。私はソニーの全盛期を知らないので、かつては本当に世界で輝いていたんだとあらためてわかった。