ブルーリボンはオニツカのシューズを着実に売りさばき、両者の関係は良好に見えた。しかし、オニツカの社員キタミは、ブルーリボンを切り捨て、もっといい販売店と手を組もうとあれこれ画策する。
その動きに気づいたナイトは、独自ブランドのシューズを作ろうと動き出す。
ナイキと名付けたそのシューズの存在がついにキタミの知るところとなり、キタミはブルーリボンに契約の打ち切りを通告する。ナイトは、その事実を社員にこう告げた─。
「みんな、私たちは岐路に立っている。昨日、メインの取引先であるオニツカが契約を打ち切った」。誰もが沈んでうなだれている。
私は咳払いをした。「そこで……つまり」ともう1度咳払いし、こう言った。
「私が言いたいのは、むしろ望む地点にたどり着いたということだ」
テーブルの周りの誰もが顔を上げた。
「この瞬間こそ、私たちが待ち望んでいた瞬間だ。もう他社のブランドを売らなくてもいい。誰かのために働かなくてもいい。
オニツカには何年も拘束されていた。出荷は遅れるわ、注文は間違うわ、こちらのデザイン案ははねつけるわ。これじゃあ誰だってうんざりだ。事実に向き合う時だ。これからの成功や失敗は私たち自身の責任、自らのアイディアとブランドにかかっている。
昨年は200万ドルの売り上げを出したが……オニツカはまったく関わっていない。この数字は私たちの創意工夫と勤勉の証しだ。これは危機じゃない。これは解放だ。私たちの独立記念日だ。
そう、道のりは険しい。嘘を言うつもりはない。間違いなく戦いが待っている。だが、形勢はわかっているし、日本との向き合い方もわかっている。だからこれは勝てる戦いだという自信がある。そしてもし勝てば、そうなった時には、勝利の先にある素晴らしいものが見えてくる。私たちはまだ生きている。まだ終わってはいない」